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カルチャー

2026.10.21 16:30

地域で、世界で、活躍するカルチャープレナーたち 2026年の受賞者たちを一挙紹介!

映画界に眠る才能とともに、世界に届く「打席」へ挑む

林 健太郎 NOTHING NEW 代表取締役/映画プロデューサー

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高校時代、同級生から自主制作映画の衣装用に「柔道着を貸して」と頼まれたことが、映画を仕事にするきっかけになった。その完成作は「有名俳優出演×巨額予算で撮られたら全国公開されてもおかしくない」と感じるほど面白く、無名のつくり手の可能性を感じて東宝へ入社。しかしそこで映画界に「無名の新人に打席がない」ことを痛感した。実績がないと資金が集まらず、自費での劇場公開は難しい。漫画でいう“もち込み”のような登竜門も乏しく、夢半ばで去る新人を幾人も見た。

2022年に創業した「NOTHING NEW」では「才能が潰されない世の中」を掲げ、企画・製作、宣伝、配給、海外展開までを一貫して担うほか、体験型の企画展など映画館以外にも観客との接点をつくっている。

「才能」の条件を問うと、林は「絶対に譲れないニッチなこだわり」だと答えた。自身が何かに没頭するタイプでないぶん、他人の異様なこだわりには無上の喜びを感じるという。その一例が、映画『チルド』(監督:岩崎裕介)だ。幽霊も怪物も登場せず、主人公の成長も描かれない異色ホラーが、公開後約1カ月で観客5万人を動員。ベルリン国際映画祭では国際映画批評家連盟賞を受賞した。

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今秋公開の長編アニメ『我々は宇宙人』(監督:門脇康平)も、カンヌ国際映画祭に選出される注目作。製作幹事で社運を懸けた勝負でもあるが「世界中に届けて興行収入10億円を目指す」と、林の言葉は力強い。作家のこだわりを小さな世界に閉じ込めず、大きな興行として成立させる役目を担っている。


料理道具の枠を超え京金網を世界の暮らしへ

辻 徹 金網つじ 代表取締役/京金網職人

京金網を手がける「金網つじ」の2代目。針金を手編みする伝統技術を、セラミック付き焼き網やランプシェードなど現代の生活道具へ展開。同時に、直営店やオンライン販売にも注力し、従来の流通にとらわれず国内外の市場を開拓した。2012年には京都の伝統工芸の後継者らとクリエイティブユニット「GO ON」を結成し、パナソニックやルイ・ヴィトンと協業して未来の家電やファッションにも応用した。従来は少なかった女性や、障がいのある人も職人として受け入れ、特性に応じて工程を設計。技術だけでなく担い手の裾野も広げている。


土から地域文化・産業を再生 日本の知恵を世界へつなぐ

齋藤由佳子 JIEN LLP 共同代表 土壌回復コンソーシアム JINOWA代表

日伊を拠点に「土」を起点とした食、農、発酵、建築などを横断するプロジェクトを企画し、日本の地域の知恵を世界とつなぐ。イタリアで2014年に食文化教育ベンチャーGENを創業し、食や建築分野で30カ国以上から研修生を日本各地に受け入れてきた。「土はすべての産業の共通基盤」として、21年に土壌回復コンソーシアム「JINOWA」、23年には建築家・遠野未来氏とJIEN LLPを共同設立。循環型バイオトイレの監修など生態系を再生するリワイルディングデザインや、土壌再生を地域経済へつなげるエコシステムづくりに挑む。


日常を観光資源に変え町に人と仕事を呼び込む

松場 忠 石見銀山群言堂グループ 代表取締役

シューズメーカー勤務を経て、石見銀山生活文化研究所で島根県大田市大森町のライフスタイルブランド「群言堂」の運営に携わる。「生活観光」を提唱し、宿泊客が町内を巡って住民と交流することで、地域の日常そのものを体験できる旅のかたちをつくった。2022年には創業者である義父母から経営を承継。企業誘致や働く場づくりを通じて人口約400人の町に移住者や新事業を呼び込み、人・仕事・経済が循環する環境を整える。「その土地の暮らしに混じる」という新たな滞在需要を生み出し、生活という無形の価値を地域経営へとつなげている。


「麹=米」の常識を超え新たなSAKEを醸す

今井翔也 LINNE 代表取締役/醸造家

群馬の老舗蔵元「聖酒造」に生まれ、企業勤務を経て酒づくりの道へ。日本酒に果物やハーブを取り入れて再解釈する「クラフトサケ」のスタートアップ「WAKAZE」を共同創業し、仏・米で醸造経験を積んだ。2024年 創 業の「LINNE」では「麹=米」という日本酒の常識を問い直し、大麦やそば、サツマイモなどの植物を麹にして醸す「クロスボタニカル」を探求している。来春には国内外の醸造家が利用できるシェア型醸造所を京都・五条坂に開設予定。「何を加えるか」から「何からつくるか」へと発想を広げ、新たな酒文化を切り開いている。


日用品の「最適」を極め買っては捨てる習慣を変える

米津雄介 THE 代表取締役/プロダクトマネージャー

2012年に日用品ブランド「THE」の立ち上げに参画し、15年代表取締役に就任。生分解性に配慮した「THE 洗濯洗剤」や、青森のガラス職人と開発した液だれしにくい「THE 醤油差し」など、身近な生活用品を形状・歴史・機能・素材・環境負荷から見直し、全国各地のメーカーとともに商品化している。

25年には国際認証「B Corp」を取得。蓄積されたものづくりの技術を生かすことで、新奇性や差別化を競った新商品を次々と消費する文化に対して、長く使える「定番」を選ぶという新たな価値観を提示。「モノを捨てない社会」を日用品から実現しようとしている。

醤油の麹菌を宇宙へ木桶発酵文化を革新する

新古敏朗 湯浅醤油 代表取締役 丸新本家 五代目当主

家業は醤油発祥の地とされる和歌山県湯浅町で約145年続く味噌・醤油蔵。約40年間途絶えていた醤油醸造を復活させ、2002年に「湯浅醤油」を新設した。杉の木桶を用いた伝統製法を受け継ぎ、小学生への食育活動に励む一方、仏ボルドーでワインだるを用いて現地醸造した「SHINKO NOIRE」や、発酵技術をカカオに応用した「カカオ醤」など、新たな醤油づくりにも挑戦。来年には民間宇宙ステーションに滞在させた麹菌で醤油を仕込む実験も計画している。日本固有の醸造技術を、あらゆる場所で育つ発酵文化へと進化させている。


ロボットにも「振る舞い」を日本の身体文化を未来へ伝授

菊地あかね 所作研究家/KiQ Founder & CEO

18歳で渡米し、ニューヨークでデジタルデザインを学ぶ。海外生活を機に日本文化への関心を深め、帰国後は東京で芸者修行を経験。茶道や華道、上方舞なども学ぶ。2020年にデザインファーム「KiQ(キク)」を設立し、視線や体の距離、動くタイミングなどを「所作学(Shosa-logy)」として研究している。大阪・関西万博では、世界的ロボット研究者・石黒浩が手がけたパビリオンでヒューマノイドの所作とコンセプトを設計。日本文化のなかで培われてきた自然な動作の美しさを抽出し、AI時代における人と機械のかかわり方を探究している。


のれんから服、空間へ 1200年の染色技術を世界へ届ける

上林央佑 京都染元しょうび苑3代目/Textile Director

布に染み込ませた蝋の亀裂から独特の線模様を生む伝統技法「ろうけつ染め」を継承する染色工房の3代目。大学在学中にシリコンバレーで起業家の事業支援に従事。帰国後は現地で培った知見や人脈を生かして家業の海外展開を担い、主力ののれんを中心に世界15カ国へと販路を拡大した。仏五つ星ホテルや世界的メゾンへの納入実績をもつほか、ろうけつ染め壁紙や欧州デザイナーと協業開発したブラインドなど、ファッションやインテリアへも用途を開拓。複数の伝統技術を事業として存続させる「伝統産業発のコングロマリット」構想も掲げている。


「いけばな」で山を育てる 自然・文化・経済がつながる輪

辻 雄貴 華道家 辻雄貴空間研究所 代表

大学院で専攻した建築の学びに役立てばと、20代でいけばなの門をたたいた。ところが華道家・竹中麗湖に師事するうちに活動軸が逆転。これまでに能楽師・大倉慶乃助との舞台作品「シャクジ能」の立ち上げや、華道家初のNYカーネギーホールでの演技、日・オマーン国交樹立50周年記念能楽公演での舞台美術など、国内外でさまざまな空間表現に挑戦してきた。

辻にとって「いけばな」は、単に花を生ける行為ではない。「自然と人の関係を結び直す美学」であり、建築や舞台、さらには農業にも応用できる考え方そのものだ。なかでも重視するのが「次代へつなぐこと」。価値ある文化も、それを支える仕事や経済がなければ持続しないという問題意識がある。

「植物などの『自然資源』を、人が価値を感じる『文化資源』へ変える。そこから仕事や収益という『経済資源』を生み、利益を自然の整備へ還元する。この循環が僕の考える『循環型アート』です」

今年、その思想を故郷・静岡で実践し始めた。農業法人を立ち上げて約1,500坪の山を購入。スギ・ヒノキの放置林を再生し、そこで育つ植物を作品に用いるほか、山自体を文化体験の場として活用する。まずは5年ほどでモデル確立を目指すが、山全体を変えるには100年以上かかる。その時間軸の原点は、尊敬する能楽小鼓方・大倉源次郎の言葉だ。

「新調した小鼓は100年打ち続けることでようやく良い音に育つ。そう教わったとき、すごく日本的でいい文化だと思ったんです」

自分が手をかけ、その恩恵を後世の誰かが受け取る。その時間感覚を引き継ぎながら、自然・文化・経済を循環させる新たな「いけばな」のかたちを模索している。

文=眞板響子、督 あかり、田中友梨

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