クルマからパリコレまで 漆と異業種をつなぐ4代目
佐藤貴彦 佐藤喜代松商店 代表取締役

1921年から京都・西陣で続く漆業を継いだが、キャリアの出発点は漆から遠かった。大学院では応用昆虫学を専攻し、青年海外協力隊員としてエルサルバドルの国立農業学校で2年間活動。長く農業分野の国際協力の専門家を目指していた。
転機は、先代である父が共同研究を行っていた京都市産業技術研究所でのアルバイト。週1回の手伝いのはずが、いつしか院での研究以上に時間を割くようになった。

当時、父がすでに耐候性や乾燥性などを高めた「MR漆」の精製技術を開発し、特許も取得していた。佐藤が入社後にまず取り組んだのは、その研究成果を異業種とつなぐこと。市販の自動車にMR漆を塗装すると多くのメディアで取り上げられ、新たな接点が一気に生まれた。今年はISSEYMIYAKEとコラボした「ウルシボディ」が注目を集めた。漆を塗った硬質なビスチェで、パリコレ発表直後に商品化が決定。
漆が活躍する場を工業やファッションへと広げる一方、佐藤自身も研究開発を継続し、透明感と光沢を高めた「黎明」を開発。だが、目指しているのは漆の万能化ではない。
「強度、耐熱性、耐候性など、ひとつの性能だけを見れば、漆が専用の化学塗料に勝つことはできません。でも、これほど幅広い性能を併せもつ塗料はほかにない。漆で何をやるかを考えるのが、僕らの役割だと思っています」
そう語り、自らを“材料屋”と位置づける。

「課題を見つけ、実験し、客観的なデータを取り、分析する。このサイクルは昆虫でも漆でも仕事でも同じです。お客さんから出される課題に答えるのがうちのスタイルなんです」
顧客のイメージを後ろから支えて実現する。漆の可能性を自分で決めないことが佐藤の強さだ。
クリエイターの「ナードさ」を守りカルチャー史の転換点をつくる
大澤創太 NERD 代表取締役クリエイティブディレクター

2026年3月に始動したアーティストエージェンシーNERD。バーチャルアイドル・星街すいせいや映像制作ユニット「擬態するメタ」など熱狂的な支持を得る次世代クリエイター6組が所属する。代表取締役の大澤創太は、CEOの髙橋政記とともに自分たちが愛する「ナード(愛するものに、ピュアに熱狂できる人)」カルチャーを起点としたブランド型の組織構築を目指す。29歳の大澤は、インターネットで「好き」を掘り下げて感性を育んできた世代。そうして獲得したナードな美学(ナードさ)は、ハイブランドが用いる「クラフトマンシップ」にも通じる表現だととらえる。

「個々のクリエイター特有の美学は、ニッチでも深く刺さる強さをもっている。だからこそNERDでは、僕と高橋が偏愛するクリエイターに集まってもらい、どう世の中にもっと面白いかたちで見せていけるか、そして美学をどう守っていくか、を考えています」
従来のエージェンシーは、ビジネスとしてスケールさせるために「とがり」を削ぎ落として、マスにわかりやすく翻訳することも多かった。しかし、大澤が目指すのは、独自の美学で新しい表現やジャンルに挑戦するクリエイターたちをサポートし、それを求める人との接着点をつくることで「カルチャー史における転換点」を生み出すことだ。「自分の好きなクリエイターがたくさんいる場所の周辺に経済圏があって『人も物も場所も全部愛せるね』って思ってもらえるブランドがつくれたら」
建材ロスから「循環する文化」へ余剰資材を次の使い手につなぐ
豊田訓平 HUB & STOCK代表取締役社長

2021年に「HUB & STOCK」を創業。発注時の余りや廃番で未使用のまま廃棄される建築資材を買い取り、検品・保管・再販に取り組む。問題意識の原点は、新卒入社したゼネコンの現場にあった。ベテラン技術者が漏らした「建設って環境破壊だよな」。この言葉が心に残っていた。
新品未使用の建材ロスは国内で年間約40万トン(同社推計)。床材換算で1Rマンションの原状回復工事約400万室分に相当する。
「材料が足りず現場の工事が止まらないよう、ある程度の余裕は必要不可欠。ならば、材料が余った後の仕組みも必要じゃないかと思ったんです」

余剰ゼロを目指すのではなく、循環させる方へ着目した。集めた余剰建材を、オンライン販売やホームセンターなどを通じて次の使い手につなぐ。重くかさばるうえ、品目も数量も毎回異なる建材を、大量かつ継続的に再流通させる仕組みはこれまで乏しかった。個性的で使用イメージが湧きにくい建材は、施工事例も併せて紹介。余剰建材から新たな魅力を発見することも、豊田は文化の一部と考える。「環境のために何かを我慢するのではなく、質・価格・楽しさで選んだ結果、物を大切にすることにつながる。『もったいない』をポジティブに浸透させるのがモットーです」。
経済合理性と楽しさを両立し、物を大切にする文化を現代の消費へつなぎ直す。
地域まるごとつくり手に映画人材の裾野を全国へ
伊藤主税 and pictures 代表取締役/映画プロデューサー

俳優から映画プロデューサーに転身し、映画製作会社「and pictures」を設立。俳優志望者向けの情報支援サービス「mirroRliar」や、著名クリエイターと公募で選ばれた新たな才能がともに参加する短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS」を展開する。企業版ふるさと納税をはじめ、自治体や企業と連携した制作費の確保や、地域・クリエイターへの収益還元、学生や市民を巻き込んだ人材育成などを通じて、映画を「一部の専門家がつくる文化」から「多様な人が地域社会とともにつくる文化」へと更新している。

権利を守り、創作を支えるAIで漫画家の作画を支援
永井真之 Visual Bank 代表取締役CEO THE PEN 代表取締役

投資銀行勤務を経て、2022年に生成AI向けデータ基盤企業「Visual Bank」を共同創業。ストックフォト事業「アマナイメージズ」を取得し、長年培われた権利処理のノウハウを生かして著作権や肖像権に配慮した10億点に及ぶ画像と100万時間の動画データを提供する。その発想を漫画領域にも広げ、漫画家本人の作画データをAIに学習させ本人の画風で作画を補助する「THE PEN」を開発。「創造性の黒子」としてAI技術を用い、クリエイターの権利を守りながら、時間や体力の制約を減らして人が創作に集中できる環境をつくろうとしている。

「短い映画」を収益化ショートフィルム市場を開く
岩永祐一 SAMANSA 代表取締役CEO

映画館経営者だった曽祖父の影響で幼いころから映画に親しみ、2021年にショート映画専門の配信サービス「SAMANSA」を創業。世界中に埋もれていた30分以下の作品を発掘し、独自に字幕や宣伝動画を制作することで、国や言語を超えて新たなニーズを喚起している。配信のみならず劇場公開や機内放映も展開し、収益化が難しかったショート作品クリエイターへの還元モデルを構築。「映画を、自由化する。」を掲げ、長編中心の映画産業においてショート映画を日常的に楽しむ視聴文化と、つくり手が継続的に制作・収益化できる経済圏を育てている。

東京一極集中を変え次代のアニメーターを育む
宇田英男 スタジオエイトカラーズ代表取締役 ノーヴォ代表取締役

『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズで知られる制作会社「カラー」で会計・管理を担当したのち、東京で「スタジオコロリド」と「ノーヴォ」、高知県内初の「スタジオエイトカラーズ」のアニメ制作会社3社を創業。「誰が、どこで、どうつくるか」を問い直し、デジタル化で地方にもアニメーターの職場を創出した。OJT・インターンでの若手育成に加え、異業種人材の採用で制作へのかかわり方を多様化。「東京中心」「アナログ作業」「職人的な人材育成」など業界が抱える課題に向き合い、日本の手描きアニメ技術を次世代へつなぐ存在だ。

工芸を売れる産業へ変換ものづくりの生態系を広げる
永田宙郷 TIMELESS LLC. 代表 ててて協働組合 共同代表

金沢美術工芸大学で日本工芸史を学んだ後、美術館・デザインプロデュース会社に勤務。多くの地域・企業に携わる傍ら、2012年から「作り手・伝え手・使い手」の3つの「手」をつなぐ「ててて見本市」(現・ててて商談会)を仲間と共同主宰する。18年に個人事務所「TIMELESS」を設立。市場での位置づけや販路、誰にどう届けるかまでを見据え、金継ぎや織物など地域の伝統産業を背景にした事業立案を手がける。「ものづくりをつくる」を掲げ、工芸が現代の暮らしや経済のなかで持続可能な「仕事」として続くための仕組みづくりに取り組んでいる。

400年の技を継ぎ和紙を現代アートに昇華
川原隆邦 和紙職人/川原製作所代表

プロサッカー選手を目指してJFLでプレイするも、けがで断念。後継者不在で途絶えようとしていた地元・富山の蛭谷和紙の職人に弟子入りした。原料となる楮やトロロアオイの栽培、紙すき、造形を一貫して手がけ、受注ごとに素材や表現を設計する「フリースタイル和紙」を確立。建築・公共空間・現代アートへ展開し、2025年大阪・関西万博では、土や植物、デニム、塩などをすき込んで日本の風土を表現した大型アート制作も担当した。現在唯一の継承者として、新たな用途と需要を生み出しながら蛭谷和紙を次代へつないでいる。



