日本企業への示唆
以上は米国の投資家への調査結果であるが、日本企業に対しても大切な示唆があると考える。
まず、株式保有の面では、その比重は近年高まっている。全国4証券取引所の調査によると、「外国法人等」の株式保有比率は、2023年3月末の30.1%から2026年3月末には34.7%へ上昇し、3年連続で過去最高を更新した。同調査に掲載された売買統計でも、2025年度の海外投資家は10兆3,375億円を買い越している(出所:全国4証券取引所「2025年度株式分布状況調査」、2026年7月2日公表・表3〜5)。
海外投資家の、日本企業への影響力は増している。また、米国の動向は日本にも影響する。実際、金融庁のAI官民フォーラムでは、外資系運用会社がAI利用の社内ルールや検証体制で先行しているとの報告があった(出所:金融庁「AI官民フォーラム」第1回議事要旨、2025年6月18日)。
日本企業にとっての課題は、必ずしも情報不足ではない。決算短信、決算説明資料、有価証券報告書、統合報告書、中期経営計画、サステナビリティ資料など、情報量はむしろ多い。問題は、その多くの情報が、AIにも投資家にも分かる一つの投資ストーリーとして束ねられているかである。資料ごとに丁寧に作られていても、戦略、KPI、時間軸、経営陣の発言の軸がずれていれば、AIには「情報は多いが、何を重視しているのか分かりにくい会社」と映り得る。
対AIと対人間双方に一貫した投資ストーリーが重要
これから企業発信の主要な読者には、人間の投資家だけでなくAIが加わる。AIは、決算資料だけでなく、決算コール、IRサイト、メディア出演、ポッドキャスト、日本語と英語の発信を横断して読む。資料間の不整合、KPIの定義変更、過去発言とのずれ、競争優位性を支える証拠の弱さは、これまで以上に見つかりやすくなる。企業の公式コンテンツをAIが参照できる形で公開し、人間とAIの双方に対して一貫させる必要がある。日本企業の資料に見られる、ポンチ絵のような複雑な図解も、人間にとって必ずしも分かりやすいとは限らず、AIにとってはなおさら読み解きにくい。図そのものをなくす必要はないが、重要な結論や因果関係を図だけに委ねず、文章でも明確に示す必要がある。
AIに読み取りやすい資料を作ること自体が目的ではない。IRの土台として最も重要なのは、とことん詰められても経営陣が真摯に説明できる、筋の通った戦略、数値、投資ストーリーを設計することである。どの市場で勝つのか、なぜ自社が勝てるのか、それを裏付ける実績は何か、どこに資本を配分するのか、どのような財務価値を生むのか、前提が外れたら何を変えるのか。
AIが読みやすい公開情報を用意しつつ、経営陣が対話することで投資判断に必要な納得感や確信を得てもらう。この二つを同じ投資ストーリーの上でつなぐことが、AI時代の日本企業IRの新しい競争力になる。


