スポーツ

2026.10.03 15:15

無条件に愛されるヒーローではない。ズベレフの「気づかなかった勝利」

9月の全米オープン男子シングルス決勝戦で優勝したアレクサンダー・ズベレフ(Photo by Matthew Stockman/Getty Images)

3度の決勝敗退という重い実績を背負いながら、ようやく掴んだ初タイトルが今年の全仏、そしてこの全米だった。「僕たちは30年間、グランドスラムのタイトルを獲ることができませんでした。(これは、ドイツ人選手が、グランドスラムを制覇できなかった期間を言っている)。それが今、わずか3カ月の間に2つのグランドスラムを獲ることができました」という彼の言葉は、単なる謙遜ではなく、積み重ねてきた年月そのものへの言及である。

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トロフィーとの、いくつかの所作

優勝が決まった表彰台での数分間、Zverevはいくつかの、質の異なる動きを見せている。

元世界ランキング1位のレジェンド、Jimmy Connorsからトロフィーを受け取ると、彼はそれを両手で頭上に掲げ、のけぞるように天を仰いだ。会場のどの角度からも見えるよう、体を360度ゆっくりと回転させながら、トロフィーを示し続けた。背景では花火が上がり始めていた。そしてトロフィーに長いキスをした。

これらはすべて、観客に向けた所作だった。何万人もの目に、この勝利を焼きつけるための開放的で外向きの喜びの表現である。

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だが、その直後に見せた動きは、まったく質の違うものだった。掲げていたトロフィーを、今度は胸元までゆっくりと下ろし、じっと見つめる。そして、まるで大切なテディベアを抱きしめるかのような表情で、両手で大事そうにそれを胸に抱き、まるでそれをあやすかのように、ゆっくりと体を揺らした。

「抱く」という姿勢は、対象が何であれ、必然的に内向きの動作になる。腕を自分の胸の前で閉じ対象を包み込むとき、人は同時に自分自身の胸と体幹をも腕で囲っている。それは対象を慈しむ仕草であると同時に、自分自身を落ち着かせ、自分の内側と向き合うための仕草でもある。

トロフィーを抱きしめながら、Zverevはその腕の中で自分自身をも抱きしめていたのかもしれない。会場に示すための喜びが一通り終わったあと、彼はもう誰にも見せる必要のない、自分自身のためだけの瞬間を持ったのだ。それは、まだ実感の追いついていない現実を、自分の腕の中でようやく確かめ直しているような仕草だった。見せるための喜びと、実感するための確認。この二つが、同じ数十秒の中に静かに同居していた。

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文=日野江都子

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