製造業を巡る議論は、製品をいかに安く製造できるかという観点から見たコストの最適化や、最良の価格を提示するサプライヤー、配送コストを削減する手段など、同様の側面に終始することが多い。こうした議論は重要だが、製造業者の存続率を決定づけるものではない。
重要なのは、そもそも製造業者が操業できるかどうかを決める支配権を誰が握っているか、という点である。
私は25年間にわたり国際法を専門とし、そのうち10年間は国際法律事務所のブカレスト事務所を率いていた。そこでの業務は、中東欧における国境を越えた合併・買収(M&A)や、政府による調査への対応だった。制裁や輸出管理は、私の仕事の重要な部分を占めていた。現在はこれらのテーマについて助言を行う傍ら、センスメイキング(組織が自ら置かれた状況をどのように把握し、解釈するか)に関する博士課程の研究を行っている。
私の経験上、人々は製造業者が操業を継続できるかという問いに対し、的外れな場所を探しがちだ。その答えは「チョークポイント(ボトルネック)」と、それにどう対処すべきかという点にある。チョークポイントとは、特定の輸送ルートや、処理プロセスの大部分を担う国、あるいは極めて限定されたメーカーからしか調達できない設備などのことだ。
チョークポイント1:調達先は分散していても、処理プロセスは1カ所に集中している
リチウム、コバルト、ガリウム、レアアース(希土類)などの鉱物は、AIチップや電気自動車(EV)、防衛機器に不可欠だ。企業はしばしば原材料の調達先を5、6カ国に分散させ、それでサプライヤーリスクを管理できていると考えがちだ。しかし、彼らが考慮に入れていないのが、粗鉱をバッテリーやチップのグレードの素材へと変換する化学処理プロセスだ。この段階において、分散化のメリットが崩壊する可能性がある。
5カ国から鉱石を調達している企業であっても、その5カ国すべてが同じ国に鉱石を輸送して処理している場合がある。つまり、その処理を担う1カ国の輸出規制によって、完成した素材がそもそも出荷されるかどうかが決まってしまうのだ。下流工程でチョークポイントに直面し、その特定の下流工程を握っているのがほんの一握りの国だけであるならば、サプライヤーを分散させても意味はない。
2023年に中国がガリウムとゲルマニウムに新たな輸出規制を課した際、両金属の価格は急騰し、一部の企業は代替供給源の確保に奔走することになった。
チョークポイント2:代替ルートの欠如
国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、戦闘開始前の週において、ホルムズ海峡は世界の原油貿易の38%、液化石油ガス(LPG)貿易の29%、液化天然ガス(LNG)貿易の19%を輸送し、コンテナやドライバルク(乾貨物)貿易の一部も担っていた。しかし、2月に始まった戦闘により、ホルムズ海峡経由の輸送はほぼ遮断された(閲覧には会員登録が必要)。
貨物船は足止めされるか、アフリカ南端を迂回する長距離ルートへの変更を余儀なくされ、1隻当たり推定100万ドル(約1億5700万円)の追加燃料費が発生する可能性がある。これらの費用は最終的に、サプライチェーン全体の製造コストに転嫁される。多くの企業は、この特定のチョークポイントに対処するバックアップ計画を持っていなかった。
代替手段のない単一のルートが、いつの間にか致命的な脆弱性(単一障害点)となり、一地域の混乱を世界的なサプライチェーンの課題へと変貌させてしまったのだ。
チョークポイント3:独占された技術力
特定の機械の中には、ごくわずかな企業しか製造技術を持っていないものがある。代表的な例が、最先端のコンピュータチップを製造する装置だ。これらはほんの一握りの企業によって製造されている。あるいは、極端紫外線(EUV)露光装置の唯一のサプライヤーであるオランダ企業のASMLを考えてみてほしい。
単一のサプライヤーに全面的に依存することは、深刻な供給不足を引き起こす要因になり得る。
通常のリスク確認ではなぜこれらのチョークポイントを見逃すのか
製造業者はこれまで、コスト、品質、信頼性、スピードに基づいてサプライヤーを評価してきた。これらの指標は重要だが、いずれも前述の3つのチョークポイントを浮き彫りにするものではない。長期にわたりサプライヤーに何の問題もない状態が続くこともあるが、一夜にしてそのサプライヤーが地政学的な対立の渦中に巻き込まれる可能性もある。これは直接的にはサプライヤー自身の失策ではなく、政治的な決定がビジネス上の問題へと転化した結果なのである。
対策の一部は、在庫の積み増し、バックアップとなるサプライヤーの確保、より優れた追跡・監視ソフトウエアに裏打ちされたレジリエンス態勢の構築にある。しかし、それだけでは十分ではない。真のレジリエンスとは、問題が発生する前にチョークポイントを特定することから生まれる。
正しい問いを投げかける
経営陣は毎年、以下の5つの問いを投げかけることで、サプライヤー・レジリエンスの枠組みに能動的な回復力を組み込むことができる。
1. 当社の調達品の中で、単なる市場価格ではなく、政府の承認に依存しているものはどれか。
2. 閉鎖された場合に代替手段がない輸送ルートや物流拠点はどれか。
3. 当社の設備や生産能力が、ごく少数の国や企業によって支配されている部分はどこか。
4. 明日問題が発生した場合、その影響が当社に及ぶまでのスピードはどのくらいか。数日、数週間、あるいは数カ月か。
5. 仮に現在の貿易ルールが消滅した場合、現在の計画は依然として有効か。
撤退するのではなく、より優れた計画を立てる
グローバルなサプライチェーンは、今なお製造業の成長とイノベーションを推進するために不可欠だ。重要機器や原材料のすべてについて自国内のサプライチェーン・エコシステムを構築することは、一見優れたアイデアに思えるが、私の見解では現実的な目標とは言えない。目標は、必ずしもグローバルな貿易から手を引くことではないはずだ。目的は、リスクがどこに存在するかを把握し、どのリスクを受け入れ、どのリスクを許容できないかを自ら決定することにある。隠れた依存関係を十分に理解しておくことで、単一の政府、輸送ルート、あるいはサプライヤーの都合によって、何の前触れもなく操業継続の可否を左右される事態を避けるべきなのだ。



