何十年もの間、多くのCEOは「表舞台に立つこと(露出)はリスクである」と教えられてきた。
雑音には耳を貸すな。ウォール街と対話し、従業員とコミュニケーションを取れ。会社のマーケティングはマーケティング部門に任せておけばいい、と。
その定石が変わりつつあるのかもしれない。
「人々は企業の『顔』を見たがっている」と、BBDOワールドワイドのプレジデント兼CEOであるナンシー・レイエスは、最近の対談で筆者に語った。
レイエスには、そう主張するにふさわしい実績がある。世界最大級の広告代理店であるBBDOのプレジデント兼CEOとして、彼女は25年以上にわたり、アップル、ペプシコ、AT&T、ヒルトン、マースなどのブランドで変革を牽引するリーダーとして活躍してきた。今年の夏、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで、レイエスは刺激的な問いを投げかけた。それは「企業が雇うなかで最も高額なインフルエンサーを、どう活用すべきか?」というものだ。
そのインフルエンサーとは、CEOのことである。
レイエスは、すべての企業がこのことに注目すべきだと考えている。
CEOは企業最大のブランド資産になり得る
従来のブランド構築は、マーケターが「識別可能なブランド資産」と呼ぶもの、すなわちロゴ、タグライン、ジングル、カラー、その他消費者が企業を連想するきっかけとなる要素に依存してきた。
レイエスは、今やCEOもそのリストに加えるべきだと主張する。
消費者はますます、企業の舞台裏にいる人物を知りたがっている。なぜそのビジネスが生まれたのか? 経営陣は何を信条としているのか? 危機をどう乗り越えようとしているのか? CEOは未来をどう描いているのか?
レイエスは、ギャップ(Gap)のリチャード・ディクソンや、Airbnb(エアビーアンドビー)のブライアン・チェスキーといったリーダーを、そのリーダーシップ自体がブランドストーリーの一部となったCEOの例として挙げた。
ディクソンは、ギャップの再建を、同社を再び時代に合った存在にするという課題と公に結びつけた。チェスキーによるパンデミック期におけるAirbnbの人員削減への対応は、極めて困難なビジネス上の意思決定を、共感に基づく危機のリーダーシップの模範として、広く議論される事例へと変えた。
「彼らは公人となり、本人は意図していなかったかもしれないコンテンツを生み出している」とレイエスは語る。「焦点を絞れば、CEOは実質的に独自のメディアチャネルになることができる」
しかし、企業はまさにこの点でこの潮流を誤解しかねない。
CEOには「確固たる信念」が必要
安易に出される結論は、「すべてのCEOが今すぐポッドキャストを始め、カメラクルーを雇い、リンクトイン(LinkedIn)に1日3回投稿すべきだ」というものだろう。
だが、それはレイエスの推奨することではない。
「これ以上コンテンツを求めている人はいない」と彼女は語る。そうではなく、コンテンツはオーディエンスが理解できる何かと結びついていなければならない。つまり、「このCEOは〇〇を支持している(〇〇という信念を持っている)」と感じられるものであるべきなのだ。
CEOのコンテンツ戦略は、ソーシャルメディアの投稿スケジュールからではなく、ビジネス上の課題から始まるべきである。
その組織は何をしようとしているのか。存在意義を取り戻すことか? グローバル展開か? 100年の歴史を持つビジネスの近代化か? 人材の採用か? 危機後の信頼回復か?
その上で、CEOがその課題について公に語るだけの信頼性、情熱、そしてコミュニケーション能力を備えているかを問う必要がある。
「すべてのCEOが表舞台に向いているわけではないが、自分たちの最大の強みを活かす必要がある」とレイエスは認める。
露出を高めることが、実はリスクを軽減する
表舞台に立つためには、エグゼクティブはプライバシーを権力に、目立たないことをリーダーシップに結びつけてきた何十年もの体感覚(マッスルメモリー)を覆す必要がある。
レイエスは、なぜそのような哲学が発達したのかを理解している。歴史的に、CEOをカメラから遠ざけておくことは、企業のリスク管理に役立ってきたからだ。
しかし今日、ほぼすべての人が事実上、公の存在となっている。「どうせ公の存在になっている可能性が高いのだから、何らかの意図を持って前に出た方がいい」とレイエスは言う。
より大きなリスクは、いずれ、顧客がその企業を率いる人物について何も知らない状態になることかもしれない。
レイエスは、対談中に示された「消費者の61%は、CEOが誰であるかを知っている場合、そのブランドをより信頼する」という調査結果に言及した。それにもかかわらず、多くの組織はいまだに、露出を戦略的に活用するのではなく、CEOを露出から守ることをデフォルトにしている。
対談の最後に、筆者はレイエスに「CEOとして、あなたはクリエイターですか?」と尋ねた。
「もちろんです」と彼女は答えた。「インタビューもコンテンツです。リンクトインの投稿もコンテンツです。従業員との対話も、基調講演も、クライアントとの公開ミーティングもすべてコンテンツです。そのすべてが私のブランドの一部であり、BBDOのブランドの一部なのです」
彼女からリーダーへのアドバイスは、定期的に一歩引いて、自分が公に発信したすべてのことを見つめ直し、こう自問することだ。「自分はブランドを体現できていただろうか? ビジネスを代表できていただろうか? 何を強調し、何を控えるべきか?」
そしてレイエスは、エグゼクティブ・リーダーシップが向かう先について、おそらく最もシンプルな要約を示してくれた。
「今の世界では、コンテンツを作っていなければ、存在していないのも同然です」
あなたがCEOなら、今こそ自分に問いかけなければならない。その資産を隠し続けるのか、それともついにその活用方法を見出すのか、と。



