Rh陰性が、自然選択で消滅しなかった理由
なんらかの形質が親と子で一致していない場合に初めて問題が生じる場合、負の頻度依存選択(珍しい型ほど不利になる仕組み)と呼ばれる現象が起きる、と生物学者は予測する。どちらの型にしても、より珍しい方が不適合妊娠につながりやすく、ひいてはダメージを受けることも多くなる。だとすれば、その珍しい遺伝子バリアントはゼロに向かって押しやられ、15%も残らないはずだ。2016年に『PLOS ONE』で発表された研究で述べられているように、Rh式血液型は、発見されたその日からほぼずっと、進化上の謎であり続けている。
広く認められたただ一つの答えは存在しないが、いくつかの説明で、だいたいのところは答えられる。最も明快な説明は、生物学の仕組みから受ける印象ほど選択圧が強くなかったというものだ。通常、Rh陰性の女性によるRh陽性の子の妊娠は、第1子の妊娠・出産は問題なく終わる。というのも、感作(抗原に対する抗体をつくるようになること)が生じるのは出産時が多いからだ。
Rh不適合が脅威となるのは主に第3子や第4子だが、多くの女性が3人目や4人目の子を持たなかったという状況なら、選択の圧は弱く、極めてゆっくり作用する。
偶然も、大きな役割を果たす。祖先集団が少人数である場合は、ある遺伝子バリアントが、適応上の理由がまったくなくても、「遺伝的浮動(偶然による遺伝子頻度の変化)」によって高頻度化することがある。とりわけ、個体数が一時的に激減した後や、一握りの家族が新たな集団を築いたときにはそれが起きやすい。おおかたの集団遺伝学者の見解によれば、Rh遺伝地図の大まかな分布パターンは、なんらかの隠れた利点ではなく、こうした歴史で説明がつくという。
さらに興味をそそる仮説として、Rh陰性には、欠点を埋めあわせるなんらかの利点がある可能性があるのかもしれない。2021年に『Journal of Evolutionary Biology』に掲載された研究は、(プラスとマイナスの)遺伝子を一つずつ持っている人には健康上の優位性があり、それだけで両方の遺伝子のバランスを維持するには十分だ、と主張した。ただし、この知見は一つの研究対象グループにもとづいており、相関的なものにすぎないため、確たる説明というよりは、仮説の域にとどまっている。


