気候・環境

2026.09.30 15:00

映画『オデュッセイア』の嵐は実在した、地中海の嵐「メディケーン」の正体

Tim P. Whitby/Getty Images

Tim P. Whitby/Getty Images

ホメロスの叙事詩を映像化した映画『オデュッセイア』を、ついに家族と観ることができた。この大作をIMAXで観るために数週間待ったのだ。映画を観ながら、この物語に描かれる人物像や情景、その壮大な物語をたどっていくと、高校時代の記憶が頭の中によみがえった。つい先日、私と同じ気象学分野の同僚たちは、地中海で「メディケーン」と呼ばれる稀なタイプの嵐が発生する可能性について話していた。それが何かについては後ほど説明するが、この話題をきっかけに、人文学と大気科学が交差する思索へと入り込み、『オデュッセイア』における天候について考えることになった。

メディケーンとは何か。オデュッセウスは遭遇したのか

欧州宇宙機関(ESA)のウェブサイトは、「メディケーンという言葉は、地中海ハリケーンの造語で、地中海上で発生する熱帯低気圧のような嵐を表すため、わずか20年ほど前につくられた」と説明している。「一般に、ハリケーンほど頻繁でも強力でもないが、それでも破壊的な風、深刻な洪水、危険な高潮をもたらすことがある。地中海盆地周辺に暮らす5億人超に対し、重大な脅威を及ぼすだけでなく、影響を受ける国々に大きな経済的損失をもたらす」と、同サイトは続けている。

2026年9月中旬時点の海面水温偏差  (C)University of Maine Climate Reanalyzer and NOAA
2026年9月中旬時点の海面水温偏差 (University of Maine Climate Reanalyzer and NOAA)

今季、地中海の海水温はとりわけ高い。上の地図では、太平洋のエルニーニョに関連する異常に暖かい海水域と、地中海の異常高温域がそれぞれ際立っている。メディケーンはハリケーンと同様、暖かい海水をエネルギー源とするが、温帯低気圧のように上空の寒気からもエネルギーを得る。気象専門メディア「ウェザー・ネットワーク」によると、「過去の著名なメディケーンには、2020年9月にギリシャを襲った『イアノス』があり、観測史上最強だった。勢力はカテゴリー2のハリケーンに相当する水準に達した」という。

メディケーンは年に3回ほどしか発生しないが、今週、その1つが形成される可能性があるとの見方が出ていた。予報担当者らは、リビア北東の低気圧域に注目していた。ただし、当時の気象衛星画像では、嵐のシステムの痕跡はなお明瞭に見えるものの、発達する可能性は低下したようだった。

『オデュッセイア』における気象学

地中海の天候は、映画『オデュッセイア』においては登場人物のような、中心的な役割を果たしている。スパイク・リーの壮大な映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』における「暑さ」と同じだ。私は映画で見たこと、そして記憶していたことを振り返り始めた。ハリウッド映画はドキュメンタリーではない、という点を忘れてはならない。一定の創作上の自由がある。大気科学者として、私も『ツイスター』のような映画を観るときには、その事実を自分に言い聞かせる必要がある。

ランドール・セルヴェニーは私の同僚であり、アリゾナ州立大学の著名な地理学者・気候学者である。「私の『オデュッセイア』に関する研究は、この作品からどのような『現実の気象学的』知見をくみ取れるかという観点で検討したものだ。叙事詩の冒頭でホメロスが描く船団の位置、つまりオデュッセウスの船だけが航路を外され、それ以外はすべて沈む場面は、現代の寒冷前線が、エーゲ海を通過する状況と比較できると私は論じた」と、セルヴェニーはメールで語った。「幸い、オデュッセウスは、メディケーンの猛威に遭遇する必要はなかった」と彼は続けた。

セルヴェニーは、異常気象と気候に詳しい。世界気象機関(WMO)の「気象・気候極値報告官」を務めている。1993年には、私の分野で最も権威ある査読付き学術誌の1つである『アメリカ気象学会誌(BAMS)』に、ホメロスの『オデュッセイア』に関する気象学的評価を発表した。そこで彼は、現代の確立された気象理論を、オデュッセウスの船団の航海に適用し、ホメロスが描いた気象状況が妥当なものだったか、さらには同地域の気候変動の記録を過去へ遡って検証できるかを評価した。この論文でセルヴェニーはいくつかの結論を示している。

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編集=鈴木喜生

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