購買行動を例に取ると、その意味はわかりやすい。現在でも商品の検索や比較検討まではAIの利便性を実感しやすいが、実際に購入を確定する段階では、ユーザー本人による承認と決済情報の厳格な保護が欠かせない。基調講演ではMastercardとの協業によるエージェンティック・コマースのデモンストレーションも披露された。
クアルコムのCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)であるドン・マグワイヤ氏も、AIエージェントを広く普及させるためには、チップセットの性能だけでは十分ではないと強調した。デバイスメーカー、ソフトウェアベンダー、アプリや決済サービスを手がける事業者が密接に連携し、その強固なパートナーシップの上にAIエージェントが安全かつ確実に仕事をこなせる環境を構築する必要があるという。
クアルコムは2026年に米国/英国/ドイツ/中国/インド/ブラジルで「AIエージェントに対する意識と関心」をテーマとする独自の市場調査を実施した。その結果、回答者の約7割が「個人に最適化されたAIエージェント」に関心を示したという。さらに66%が「自分のエージェントを中心として連携・構築された複数台のデバイスを持ってみたい」と回答を寄せた。調査の結果を受けて、マグワイヤ氏は「関心を持つことは人々の最初の一歩に過ぎず、行動変容を起こすためには『自分に最適化された安全なAIである』ことが必要。そのためには親しみやすさと信頼性の確保が不可欠だ」と語った。
今回の取材で見えてきたのは、クアルコムが半導体の性能向上だけでなく、デバイスメーカーやグーグル、決済事業者などとの協業を通じて、AIエージェントが実際に仕事をこなせる環境を築こうとしていることだ。スマートフォンからウェアラブル端末、自動車へと利用シーンが広がるほど、それらを安全につなぐ半導体と通信技術の価値も高まる。
ただ、ユーザーの個人情報やAIが蓄積した文脈を、これから誰が管理し、異なるメーカーの機器やサービスへどの範囲まで引き継ぐのだろうか。今回の発表では、その具体的な仕組みや責任分担までは十分に見えなかった。AIに買い物や予定の調整を任せるなら、ユーザーが何を許可し、いつ取り消せるのかもわかりやすく示す必要がある。
アモン氏が描いた「アプリから意図へ」という転換を広く定着させられるかは、半導体の性能だけでは決まらない。パートナーとともに、ユーザーが安心してAIに仕事を任せられる条件をひとつずつ整えること。その地道な取り組みこそが、結果としてAIエージェントの普及を早める近道になると筆者は考える。
連載:デジタル・トレンド・ハンズオン
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