メキシコ湾北西部のフラワーガーデン・バンクス国立海洋保護区と、その周辺の大陸棚外縁の生態系で、初めてホホジロザメ(学名:Carcharodon carcharias)が確認され、海洋生物学者などで構成される米研究チームによって2026年9月に発表された。これはメキシコ湾の沖合に連なる岩礁(バンク)の一帯が、北大西洋の西側を何千kmも移動するホホジロザメの回遊ルートの一部である可能性を示唆している。
フラワーガーデン・バンクス国立海洋保護区は、テキサス州の沖合およそ200kmに位置する。保護区内には海底から隆起した岩礁が17カ所あり、硬い底質(ハードボトム)の生息環境として点在しているが、こうした環境はこの一帯ではあまり見られない。これらの生息環境の多くは、サンゴや海綿動物、その他の無脊椎動物の暮らしを支えており、それらをエサとして生きる魚たちのすみかにもなっている。また、岩礁周辺の海域には、サメやマグロ、カジキといった広範囲を移動する捕食者も集まってくる。
多くの生物を呼び寄せるこれらの海中都市を、研究者らは35年以上にわたって観察し続けてきた。しかし、ホホジロザメに関しては、目視観測でも遠隔操作型無人潜水艇(ROV)による調査でも、これまで一度も確認されたことがなかった。
9200kmを移動した個体も
2022年から2025年にかけて、同保護区とその周辺の大陸棚外縁に、大型の音響受信機アレイ(複数の聴音マイクが配置された装置)が設置された。これは32台の受信機が、自然の岩礁や人工漁礁などさまざまな地点に置かれたことを意味する。それと同時に、南は米サウスカロライナ州から、北はカナダのニューブランズウィック州にかけての北米東岸一帯では、すでにホホジロザメに音響送信機が取りつけられていた。送信機をつけたホホジロザメが受信機のそばを通過すれば、受信機がその個体特有の音響信号を検知し、記録する仕組みだ。
これらの機器によって、ホホジロザメ9匹がメキシコ湾に出現したことがデータで示された。それはマサチューセッツ州やサウスカロライナ州で送信機を取りつけたサメで、そこからメキシコ湾北西部の大陸棚外縁まで約3700km以上も移動した個体もいた。しかもそれらのサメは、偶然そこを通り過ぎたわけではないことも判明している。うち5匹は、保護区内の岩礁7カ所(イースト・フラワー・ガーデン、ホースシュー、ブライト、ガイヤー、レザック、シドナー、オールダーダイス)で検知され、それ以外の個体は、周辺の岩礁や人工漁礁で検知されたが、沈没船や石油・ガスプラットフォームに近い地点も含まれていた。
ホホジロザメが出現したタイミングも興味深い。検知されたのは1月から8月にかけてで、最も多かったのは春と夏だった。保護区にとどまっていた期間は比較的短く、同じ受信機の近辺に1日以上とどまった個体はゼロだった。つまり、その岩礁は目的地というよりも、その先に続く長い旅路の足掛かりである可能性が高い。



