こうした無意識の反応を繰り返すなかで、特に注意が必要なのが、責任感が強く、真面目な人だと荻野は言う。
「最近はバーンアウトに関する記事などもよく目にしますが、そういう人には、真面目な人が多いんです。自分ができないからだ、と考えて、それをバネにハイパフォーマンスを発揮してきた。でも、今までのパターンでは対処できない状況になったときに、そのパターン自体が崩壊してしまう」
成果が出ない。価値観の異なる部下をマネジメントしなければならない。不得意な上司と付き合わなければならない。それでも従来のパターンで、さらにアクセルを踏み続ける。そんな人ほど、自分の限界に気づきにくい。ここに現代のメンタルマネジメントの難しさがある。
ネガティブな感情は、自分を知るチャンス
では、自分の思考のクセにどう気づけばいいのか。荻野が強調するのは、怒りや不安、自己否定といったネガティブな感情を、単に排除すべきものとして扱わないことだ。
「自分の内側にネガティブな感情が立ち上がってきたら、むしろチャンスだと捉えてほしいんです」
誰かに腹が立ったとき、「あいつが悪い」と考える。失敗したときには自分には能力がないと落ち込む。あるいは、不快な感情そのものを早く消したくて、怒りをぶつけたり、その感情を見ないふりをしたりする。しかし、その瞬間こそ、自分の思考のクセが表面化している。
「なぜ、自分はこんなに怒っているのだろう」
「なぜ、この失敗を100%自分の責任だと思っているのだろう」
「なぜ、この人とのコミュニケーションだけ、これほど怖いのだろう」
そう問いかけることで、感情に飲み込まれている自分から一歩離れ、自分自身を観察する余地が生まれる。いわゆるメタ認知であり、自己認識の始まりだ。そして、荻野が特に重視するのが、頭だけで内省(自分の思考や感情を振り返り、見つめること)しないことである。
「内省というと、その出来事について頭の中で考えることだと思っている人が多い。でも私は、思考的な内省だけではなく、感情的な内省、身体的な内省まで含めてほしいと思っています」
怒っているとき、胸のあたりがムカムカしているかもしれない。不安を感じると胃がキュッと縮む人もいる。頭が熱くなる、背中に違和感を覚える、肩に力が入るという人もいる。感情の変化は、身体にも表れる。だから、自分はいま何を考えているのかだけでなく、身体では何が起きているのかに注意を向ける。
荻野がこれまで接してきた優れたリーダーにも、身体の変化を敏感に察知する人がいたという。
ある女性リーダーは、小学生の頃に半年ほど入院した経験から、仕事より身体を優先するというルールを持っていた。早朝から働く一方で、夜はきちんと眠る。そして、疲労が溜まってきたと感じれば迷わず休む。それでもリーダーとして高い成果を出していた。
「私が考えるセルフマネジメントが上手な人は、身体への気づきが優れていると感じます。思考は感情から影響を受け、その感情は身体感覚と密接につながっている。身体の状態を認識できる人は、不安や思考のクセへの対処もうまいんです」
後編(10/22公開)に続く>>

荻野淳也◎一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事。慶應義塾大学卒業後、外資系コンサルティング会社やベンチャー企業の経営企画室長・事業担当役員などを経て現職。企業のリーダーシップ開発や組織開発の分野で、個人や組織の変容を支援するコンサルティングや研修、エグゼクティブコーチングに従事。グーグル本社で開発されたマインドフルネスベースの人材開発プログラムを日本で初めて開催。多摩大学大学院MBA客員教授、慶應義塾大学大学院理工学研究科非常勤講師。


