サイエンス

2026.09.25 17:00

世界人口の65%は牛乳を消化しにくい、乳糖不耐症を巡る進化の謎

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牛乳は、お腹を壊すので控えている、という人は、こんなふうに誤解していないだろうか。ほかの人は何の問題もないのだから、牛乳を飲めない自分の体は何かが欠けているに違いない、と。

そうした解釈に拍車をかけているのが、牛乳が飲めない体質を表す「乳糖不耐症」という言葉だ。不耐症という言葉には、ごくありふれた食品を体が受けつけられない、機能不全という響きがある。しかし生物学的に考えると、その理解はそれほど正しくない。

ほぼすべての哺乳類は、牛乳や母乳に含まれる乳糖(ラクトース)を分解して吸収しやすくする腸内の消化酵素ラクターゼが、乳を必要とする授乳期に体内で分泌される。そして、ほぼすべての種は、離乳してしばらく経つと、ラクターゼを分泌する遺伝子のスイッチが切れるようになっている。

つまり、ラクターゼの分泌が止まるのは機能不全ではなく、単なる身体的な管理システムだ──二度と口にしないであろう食べ物のために消化酵素をつくり続ける意味がないからだ。

大半の人は、体がこの流れに沿って機能する。米国立衛生研究所(NIH)が一般向けに公表している遺伝子情報「MedlinePlus」によると、世界のおよそ65%の人は、成長に従ってラクターゼの分泌が低下するとみられる。裏を返せば、残りの約3分の1は、生涯にわたってラクターゼが最大限に分泌され続けるわけだ。

生物学者は、こうした3分の1が持つ特性を「ラクターゼ活性持続性」と呼ぶ。こう呼び名がつくことからして、どちらの集団が例外であるかがわかる。

乳糖に耐性があるかどうかには、地理的な背景がある

ラクターゼ活性持続性は、世界中に等しく分布しているわけではない。欧州の北西部ではごく一般的で、成人の90%近くがこの特性を有している。また、東アフリカで暮らす一部の牧畜民や、中東ならびに南アジアの一部でも、ラクターゼ活性持続性を持つ人が多い。これに対して、東アジアや東南アジアではラクターゼ活性持続性を持つ人はまれで、少数派となっている(日本では1~3割が持つとされるが、日頃から牛乳を飲む習慣がある人は、腸内細菌が代わりに乳糖を分解するようになるため、症状が出ないケースも多い)。

こうした分布パターンと、搾乳できる動物を飼っていた人々が暮らしていた地域の歴史を並べてみると、部分的に重なり合うところがあるのは一目瞭然だ。新鮮な牛乳を長期的に日々入手できる地域では、成人の大部分が牛乳を消化することができる。

遺伝学の分野でも、同じ傾向が示されている。ラクターゼの遺伝子そのものは変化がなく、問題なく機能している。変化が起きるのは、近接したDNA領域、つまり、遺伝子のオン・オフを切り替えるスイッチの役割を担っている部分だ。このスイッチ部分で、いくつかの突然変異が起こった場合も、ラクターゼがそのまま分泌し続けるようになる。

2007年に『Nature Genetics』に掲載された研究では、東アフリカで暮らす牧畜民が持つ、ラクターゼ活性持続性を可能にする遺伝子変異は、欧州の一般的な変異とは無関係で、まったく異なる遺伝的な背景で生じたものであることが示された。この2つの集団は、乳糖を消化できないという同一の問題に直面し、それぞれ独立して同じ解決策にたどり着いたのだ。

これは、異なる生物種の翼や眼などで起こる「収斂進化」に似た現象が同一種内の異なる集団間で起きたもので、「平行適応(局所適応)」とも呼ばれる。

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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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