単なる髪色を超えた影響
MC1Rが関与するのは色素細胞だけではない。この遺伝子がコードする受容体は、炎症や痛みの伝達にかかわる組織を含め、他の組織でも活性化している。その影響は無視できないほど顕著であるため、麻酔科医の間では長年、経験則として語られてきた。
2004年に『Anesthesiology』誌に発表された研究は、赤毛の女性が黒髪の女性と同じ効果を得るためには、より多くの吸入麻酔薬を必要とすることを明らかにした。これは、臨床の現場で長らく実感されてきたことを数値で裏付ける結果だ。ただし、研究のサンプル数は少なく、他研究との結果も一貫していない。少なくとも、より大規模な1件の研究では全く差が見られなかった。この影響は、実際の現象として現在も活発に研究されてはいるが、まだ結論が確定するには至っていない。
古代のDNAは、さらに興味深い情報を付け加えている。2007年に『Science』誌に発表された研究では、2体のネアンデルタール人の標本からMC1Rの配列を特定し、数千人の現代人を調べても見つからないバリアントを発見した。MC1Rの機能を低下させるこのバリアントは、髪や皮膚の色を薄くしただろうと考えられた。現代人には見られないバリアントであることから、2つの異なるヒトの系統が、同じ弱い北半球の日光にさらされた結果、異なる遺伝的経路をたどり、類似した外見に到達したとみられる。
なお、数年おきにメディアの見出しを飾る主張の1つに、「赤毛の人はもうじき絶滅する」というものがあるが、これは訂正しておくべきだろう。潜性のバリアントは、集団内で希釈されて消えていくわけではなく、単に目立たなくなるだけだ。赤毛の特徴を全く示さない保有者であっても、その遺伝子はそのまま子孫に受け継がれる。
すなわち、最も希少な髪の色が希少である理由は、ごくありふれたものだ。これはその遺伝子が、受容体が機能することが特に有用でなくなった地域に偏って受け継がれた結果であり、発現するには、機能しない受容体の遺伝子のコピーが2つ揃う必要があるからだ。


