カルチャー

2026.09.30 13:30

なぜ今、「文化」が価値になるのか「これからの文化論」を語り合う

日比野克彦(写真左)・ 宮田裕章(同右)

日比野克彦(写真左)・ 宮田裕章(同右)

Forbes JAPAN 2026年11月号は、文化の力で世界を駆ける「カルチャープレナー」たちを特集。文化やクリエイティブ領域の活動によって新ビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる文化起業家を30人選出する企画で、今回で4回目となる。今年注目したのは、優れた作品や商品を生み出すだけでなく、流通や人材育成、地域との関係まで含め、文化が続いていくための基盤をつくろうとする実践だ。アニメやゲーム、工芸、食、地域開発など領域を越えて、文化を次の創造へと循環させる挑戦を紹介する。

生成AI時代、人間の役割は大きく揺らいでいる。そのなかで、人間が何を価値とし、何を次代へ手渡すのかを考える鍵が文化だ。日比野克彦と宮田裕章が、価値生態系と創造の未来を語る。


対談の舞台は、東京・上野の東京藝術大学。東京藝術大学長でアーティストの日比野克彦と、慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章が語り合った。文化と経済の関係から、創作の過程、アーティストやカルチャープレナーの役割、AIとの共創まで。ふたりの実践と思考から、「これからの文化」とは何かを探る。

──今回の特集では、文化を生み出しながら、そこに新しい仕組みや経済をつくる人を「カルチャープレナー」と呼んでいます。なぜ今、文化がこれほど重要になっているのでしょうか。

宮田裕章(以下、宮田):経済というのは、価値を生み出す大きな仕組みの、ひとつの側面にすぎないと思うんです。社会を駆動する重要な手段ではありますが、それ自体が目的ではない。市場が価格をつけやすいのは、すでに社会が認識している価値です。一方で文化や芸術は、社会が何を価値と呼ぶのか、その前提自体を更新する役割を担います。だから文化は、経済の外側に置いて保護するだけの対象でもなければ、経済成長のための対象でもない。価値形成そのものを再定義していくものだと思います。

──だとすると、文化とは何でしょうか。

宮田:これまで文化は、自然に対して「人間がつくったもの」と定義されることが多かった。でも人間も自然や生態系の一部です。僕なりの解釈ですが、文化とは社会が何を価値と呼ぶのかを更新し、その更新能力を次の世代へ渡していくこと。それに対して経済は、その価値の生態系を持続させるための循環をつくる手段です。そしてカルチャープレナーは、価値の衝突や緊張も引き受けながら、多様な担い手とともに、新しい文化が生まれ続ける価値生態系を編み直していく人、なのではないでしょうか。

日比野克彦(以下、日比野):時代が変われば文化の見え方、とらえ方も変わるでしょう。僕は一人ひとりが文化の最小単位なんじゃないかとも考えています。国や地域、世代の文化という言い方をしますが、同じ人間はひとりとしていない。一人ひとりに違う感覚や習慣、経験がある。これからAIによって、その違いまで細かく見えるようになれば、「一人ひとりの文化」という考え方がもっと現実味を帯びてくるかもしれません。

宮田:これまでは社会の側が平均的なものしか扱えなかったんですよね。産業革命以降、効率よく大量にものをつくるために、人間もある程度「平均」に合わせてきた。でもAIやデータによって、平均ではとらえにくかった違いを扱える可能性が見えてきている。これまでは平均からはみ出しているから邪魔だったものが、むしろ価値になるのだろうと思います。そうなると、カルチャープレナーに必要なのは、すでにある需要に応えることだけではない。まだ言葉や値段のない価値が試され、育つ余地をひらくことだと思います。

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文=森 旭彦 写真=若原瑞昌

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