AIが仕事量を増やす理由
AIを導入したものの、Korn Ferryが言う「スーパーパワー」を得るどころか、仕事量の増加、すなわち「超負担」に直面している多くの組織には、以下のような問題がある。
・マネージャー層への投資を行わずに組織のフラット化を進めた結果、残されたマネージャーがAIの管理に加えて、過剰な業務負担を背負い込むことになっている。
・人員削減の後に残された従業員は、ビジネス上のニーズを満たすためにAIを使ってより多くの成果物を生成し、他者の分の遅れを取り戻すために時間外労働を強いられている。しかし、多くの場合、それに見合う対価は支払われていない。責任が増す一方で、給与や役職は変わらないままだ。
・人員削減によるコスト削減が常態化し、残った従業員が追い詰められている。
具体的なデータを見ると、以下のような状況が明らかになっている。
・マネージャーの約43%が、忙しすぎて有意義な成果を出せないと回答し、44%が自身の勤務先でマネージャー職の人員削減が行われたと答えている。また、半数が職場の変化のスピードに疲弊している。
・回答者にとって、現在の仕事にとどまる、あるいは他社へ転職する動機として、給与、雇用の安定、および職場での公平な扱いが上位を占めている。
・従業員の約62%が、現在は複数の職種の責任を兼務していると感じている。これは自己成長につながることもあるが、業務範囲の拡大に見合うだけのキャパシティやウェルビーイングへのサポート、公正な報酬が提供されなければ、否定的に捉えられる可能性もある。
さらに、同調査では回答者が以下の記述に同意するかどうかも尋ねた。
・「AIツールの導入により、自分の職務で求められるタスクの数が増えた」——回答者の53%が同意。
・「業務を補佐するためにAIを使用するよう求められた際、効率が向上したと感じた」——回答者の61%が同意。
この結果は、AIが業務の処理能力や効率を向上させるからといって、必ずしも仕事量が減ったり、ウェルビーイングが優先されたりするわけではないことを示唆している。
起業家である筆者自身も、AIの高度な機能によって達成できることが増えれば増えるほど、仕事を辞めるのが難しくなることに気づいた。さらに多くのことができるとわかっているため、限度なく働き続け、AIを使って自分で新たな仕事を増やしてしまうという、ハムスターの回し車のような状態に陥ってしまうのだ。
では、私たちはこれらすべてから何を学ぶべきだろうか。
AI活用の正しいあり方
AIへの投資が成功した2つの好例を紹介する。
・イケア(IKEA)は2023年、AIと人材の双方に同等の投資を行った。同社のAIチャットボット「ビリー(Billie)」が問い合わせのほぼ半分を処理するようになった後も、コールセンターのスタッフを解雇することはしなかった。代わりに8500人のスタッフにインテリアデザインのリスキリングを実施し、それまで未開拓だった市場から新たなビジネスチャンスを創出したのだ。
・ウォルマート(Walmart)のダグ・マクミロン(Doug McMillon)CEOは、驚くような規模の人員削減を選択する代わりに「AIを活用して『攻め』に転じ、210万人におよぶ従業員の仕事、リーダーシップ、目的を再構築している」と語った、とニュースサイトの「アクシオス(Axios)」は報じている。
生産性の向上は可能だ。しかし、生産性向上という言葉が、役員会議での議論や全社集会での演説にとどまらず、成果物を生み出す労働者の負担軽減や成果の向上へとつながるためには、すでに時代遅れとなったシステムや働き方にただAIを付け足すのではなく、人々が公平に扱われ、リスキリングし、投資を受け、主体的に仕事を再設計する権限を与えられる必要がある。


