ブランドアイデンティティを改めて考える機会に
また、非デザイナーの社員へのアプローチについても発見があったという。当初は自作モデル自体をグループ全社員に配布して使ってもらうイメージを描いていたが、現場のリアリティに触れる中で運用が進化していった。
「職種によっては何をプロンプトに入力すればいいか分からないというハードルがあります。そのため、モデルを配るのではなく、デザインラボ側でクオリティの担保された画像パーツを大量生成し、それらを営業担当者などが使えるプレゼンテンプレートとして手渡すことで、結果的に会社全体の表現統一と効率化に繋がりました」(宮下氏)
さらに、初期学習(モデリング)における試行錯誤も欠かせないプロセスだった。日本でも導入事例がほぼない時期だったため、アドビと二人三脚で試行錯誤を繰り返したという。
「単に既存の写真を大量に投入すれば良いわけではなく、『楽天らしさ』とは何なのかを言語化し、要素を絞り込んで学習させないと狙ったアウトプットは出てきません。エンジニアを介さず、我々が直接モデリングを行えたことがブランドのアイデンティティを改めて考えるきっかけになりました」(吉田氏)
クリエイターは「仕組みを設計して増やす」役割へ
楽天が推進するカスタムモデルの活用は、クリエイターの働き方や組織のパラダイムシフトをもたらしている。
作業やレビューに追われていた時間が削減されたことで、デザイナーは「これからの時代に楽天ブランドをどう表現するか」という本質的なブランディングや、UI/UX戦略、顧客の課題解決といった創造的業務へ思考のリソースを集中できるようになっている。
「手を動かせば仕事になる時代は終わりつつあります。これからのクリエイターは、手ではなく頭(思考)、目(審美眼)、言葉(ブランドの言語化)を使い、クリエイティブが生まれる仕組みを設計する役割へと進化していきます」(鍋嶋氏)
今後は、広告表現におけるユーザーごとのパーソナライゼーション展開や、静止画にとどまらない動画領域への活用拡張も見据えているという。
テクノロジーを活用して表現の軸(DNA)を仕組み化し、クリエイターの創造性を解き放つ楽天の挑戦は、AI時代における企業ブランディングの新たなスタンダードを示している。


