Forbes JAPAN 2026年10月号は、日本発「世界を変える30歳未満」30人特集。
30歳未満の次世代をけん引する若い才能に光を当てるアワードで、米『Forbes』が11年より開催し、世界的に注力している。『Forbes JAPAN』でも18年から8年間で総計330人を選出してきた。今年の受賞者も、AI革命の真っただなかで先頭に立ち、想像力、知性、そして並外れたグリット(やり抜く力)をもって、「自分が思うより良い未来」を目指す30人だ。彼ら彼女らがつくる「 新しい社会、新しい経済」から見えてくるものこそが、日本の未来の希望になる。
生成AIの「グリーフボット」で死者との距離感が更新される現代。見えないはずの死者を、見えるものにしてよいのか。近世思想研究者・石橋直樹が、江戸時代の国学者・平田篤胤の死者への倫理から生き方を問う。
死者たちが、再びわれわれに話しかける時代がきた。生前の映像や音声、文章などが残されていれば、生成AIがその人の声や表情、言葉遣いを再現することができるサービスが登場しつつある。いわゆる「グリーフボット(griefbots)」、ないし「デスボット(deathbots)」といわれるサービスである。これによって、亡くなった家族の姿を画面上に映し出し、生前と変わらない口調で会話することも、もはや難しい時代ではなくなった。民間信仰では、死者との交流は青森県恐山のイタコなど、シャーマンたちの領域であった。シャーマンたちを通して行われた死者との交流が、今やエンジニアを通して行われるような時代となったのである。
「グリーフボット」の問い
この取り組みに対して、ある方面からは、死者の尊厳から死後の人権も守られるべきだという批判がなされているという。そしてまた、別の方面からは死者を冒瀆する悪徳ビジネスだという批判があると聞いた。しかし、その批判に対して、まず考えなければならないのは、生成AIで再現(レプリゼンテーション)された死者は、果たして生前と同じ死者なのかということである。こうした問題を考えなければ、そもそも、その死者に対する倫理的な問題を考えることは極めて難しいのである。ここに、死者をめぐっての古来より変わらぬ神学的問題が潜んでいるのだ。
神道行法の世界では、死者を降ろす技術に「鎮魂帰神法」というものがある。これは、神霊を降ろして、神霊と対話するための基本的な技術のことである。しかしこの「鎮魂帰神法」で確認しなければいけないことのひとつに、降りてきた神や死者が、果たしてどんな霊なのかということがある。降りてきた神や死者は、本当は何者かわからない。邪神・邪霊かもしれないし、生者に悪意をもっているかもしれない。だから「鎮魂帰神法」では、最初周到に、降ろした神や死者と問答をするのだ。「貴方様はどなたですか」という呼びかけは、降ろしてきた神がわからないからこそ行われる、シャーマンたちの知恵であった。
死者との交流は、よくわからない悪霊を呼び寄せてしまう。このようなテーマは、Jホラーなどで何度も繰り返されてきた。しかし、「グリーフボット」の事例が明らかにしたことは、こうした意識が希薄になりつつあるということだろう。本来、死者として表象されたものは恐ろしいものでしかない。それが、視覚として見えているが故に、逆説的に見えざる恐ろしい何かを呼び込んでしまうからだ。生成AIの登場から、もう一度問わなければならないのは、こうした見えている死者と、どう距離を構築していくかということのように思う。




