現代小売の「常識」を覆す再建策
実権を握ったグリーダーとゲーリングは、米国事業を「欧州仕様」に作り直すという大改革に乗り出した。
トミー ヒルフィガーを救うため、彼らがとった戦略は現代小売業界のルールに逆行するものだった。「価格を引き上げ」、「服のシルエットを細身にし」、「一部の顧客を遠ざけ」、「卸売先の店舗を切り捨てる」という、直感に反する劇薬だ。しかし、これが功を奏した。
彼らは米国の従業員の40%を削減。さらに米国の卸売事業を大幅に縮小し、数千に及ぶ百貨店の棚から低品質な商品を一斉に撤去した。
「エイパックスの投資は、より良い製品を作るための資金を確保するためのものでした。私たちは、値引きを大幅に減らすという賭けに出たのです。もし以前と同じレベルの値引きを続けていたら、自滅していたでしょう」(ゲーリング)
メイシーズとの独占契約という大バクチ
この再建策において鍵となったのが、流通網の大胆な「選択と集中」だ。
当時、全米に約800店舗を展開する百貨店大手メイシーズ(Macy’s)は、すでにトミー ヒルフィガーの卸売事業の約60%を占めていた。ゲーリングは、この比率を「100%」に引き上げることを提案したのだ。
メイシーズのCEOであるテリー・ラングレンは、2007年の夏に行われたこの独占契約の交渉を今でも鮮明に覚えている。「やるからには、我々も完全にコミットする覚悟でした」とラングレンは語る。販売チャネルをメイシーズに絞ったことで、店頭に並ぶ服のクオリティを厳格に管理できるようになった。ダボダボのジーンズやTシャツは姿を消し、立体的でスリムフィットなセーターが並ぶようになったのだ。
過去最高の売上と、創業者トミーの現在
事業再建とリーマンショックの危機を乗り越えた2010年、アパレル大手のPVHコーポレーションがトミー ヒルフィガーを30億ドルで買収した。これは近年最大の小売業買収劇となった。
米国内でPVHの巨大なスケールメリットを享受できるようになった同社は、年間約1億7000万ドルを国際的なファッション誌や主要都市のビルボード広告に投じている。欧州事業の売上は15億ドルに達し、世界全体の43%を占めるまでに成長。さらに「東へ行けば行くほど成長は大きい」とゲーリングが語る通り、アジア圏の伸びも凄まじい。
見事なターンアラウンド(事業再生)を果たし、過去最高の業績を更新した今、創業者のトミー・ヒルフィガー自身はチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)としてブランドの顔を務め、ランウェイショーや広告、全体的な美学の監修に情熱を注いでいる。ビジネスの舵取りをゲーリングやグリーダーといった優秀な経営陣に任せることに、彼は大きな満足を感じているという。
ヒルフィガーは笑ってこう語る。
「彼らは時計の針のように、正確無比にビジネスを動かしてくれますからね」
(forbes.com 原文)


