これはプレビューです
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2026.08.31 16:00

「AIサステナビリティ統合カンパニー」を目指す──BlackRock系ファンドから135億円調達と60億円M&Aで加速するアスエネの世界戦略

7月23日、アスエネは135億円の資金調達と最大60億円による欧州企業の買収を同時に発表した。その経緯には、IPOよりもサステナビリティ領域で世界ナンバーワンを取ることを優先する経営判断があった。同社Founderで代表取締役CEOの西和田浩平に、世界戦略を聞いた。


アンソロピックショックの逆風下3カ月間毎日粘り強く交渉

「我々が目指すのは『AIサステナビリティ統合カンパニー』になることです」アスエネのFounderで代表取締役CEOの西和田浩平(写真。以下、西和田)は、力強くそう宣言する。7月23日は、その構想を現実へと動かす一日となった。

脱炭素ソリューションで高いシェアを誇るアスエネだからこそ実現した大型イベント「ASUENE SUSTAINABILITY SUMMIT 2026」の開催に加え、BlackRock系脱炭素ファンドをリード投資家とする大型資金調達、さらに欧州企業のM&Aを同時発表。アスエネが描くグローバル戦略を、一気に市場へ示したのだ。西和田は、「大企業のお客様をはじめ、多くの方から直接メッセージをいただき、反響は想像以上だった」と一日を振り返る。

シリーズDラウンドでは、世界最大級の資産運用会社BlackRockとTemasekの合弁会社であるDecarbonization Partnersをリード投資家に迎え、合計135億円と大型の資金調達をした。日本の未上場スタートアップとしてはじめて同ファンドから出資を受けたという。累計調達額は250億円になるが、今回の資金調達は、事業運営資金を確保するためではないと西和田は強調する。

「当社はすでにキャッシュフローベースで単月黒字化を達成しており、運転資金を確保するための資金調達ではありません。最速で1兆円規模、グローバルナンバーワン企業になるためにはM&Aが不可欠であり、そのために必要な金額を逆算して調達の規模を決めたのです」

アスエネとBlackRockとの関係は、4年前に遡る。当時はまだ投資対象としては早いと判断されたが、BlackRock側がアスエネの成長を継続的に追い続け、今回の大型投資へとつながった。

米国では政権交代によって環境政策が揺れ動いている。しかし、西和田は短期的な政治変動に振り回されるべきではないと話す。

「過去の変遷をみても、米国政権は振り子のように変わります。しかし、気候変動という根本的な課題はなくなりません。企業は超長期で考え、そこにコミットし続けることが重要です」

この考え方はBlackRockとも一致している。しかし、その交渉は決して順風満帆ではなかった。2026年2月、生成AIブームの進化で世界中のSaaS上場企業の株価が数十パーセント急落。すでに条件面で合意していたにもかかわらず、投資家側がアスエネの企業価値の再評価を要求してきたのだ。

「一度合意した内容なので、条件が合わなければ調達しないという、強い覚悟で臨みました。CFOの間瀬裕介と二人三脚で、約3カ月にわたってほぼ毎日のように海外投資家と交渉を重ねました」

その議論の中心になったのは、やはりAIだった。巨大AI企業とどう戦うのか。その答えは「企業のクローズドデータ」だった。

「AI時代に競争力を左右するのは、企業固有の高品質なデータをどれだけもっているかです。当社はCO2排出量やサプライチェーンなど、企業活動に関する独自データを蓄積してきました。それこそが大きな価値になります」

そのデータの価値や競合優位性を用いて将来戦略をブラッシュアップさせながら議論し続け、最終的に双方が納得する条件での合意に至った。

今回の調達では、従業員がもつストックオプションの一部を現金化できる制度も新設した。在籍2年以上などの条件を満たした社員が一部を売却できる仕組みだ。日本の未上場スタートアップでは前例のない取り組みだというが、西和田は、今年予定していたIPOを後ろ倒ししたことが導入の理由だと明かす。

「我々の目的はIPOではなく、グローバルで事業を最速で伸ばし、まずは1兆円以上の社会的インパクトを出すことです。上場すると、四半期ごとに結果や情報開示を求められ、大胆な海外投資やM&Aが難しくなる可能性がある。だからIPOを遅らせました。しかし、初期から長期でコミットしてくれている従業員に成果への対価として経済的インセンティブを提供することが非常に重要だと考え、この制度を導入したのです」

脱炭素・エネルギー領域で
世界一を目指す

M&Aの発表については、欧州企業2degrees Ltdを最大60億円で子会社化した。同社はアスエネの同業で、サプライチェーンCO2可視化プラットフォーム「Secaro(シーカロ)」を提供。欧州・北米の製造業サプライチェーンに強みをもち、トヨタ自動車やGM、ユニリーバなど世界的企業とのネットワークを有する。

きっかけは、M&Aのターゲット企業を事前にリストアップし、西和田からSNS経由で接触したことだ。25年7月に業務提携を開始し、10月ごろからM&Aの交渉が進んだという。しかし、この買収も決して平坦な道のりではなかった。

「資金調達と同様、当初はデューデリジェンス開始から2〜3カ月程度でのクローズを見込んでいたのですが、相手側の株主だったプライベート・エクイティ(PE)ファンドとのタフな条件交渉もあり、LOI合意からクローズまで約6カ月を要しました。しかし、これでアジアと欧米を網羅する、グローバルのサプライチェーンプラットフォームを完結させるうえで不可欠なピースを獲得することができました」

今回はアスエネにとって8件目のM&Aとなるが、同社はこれまで、2つの基本戦略に基づいてM&Aを実行してきた。

「ひとつ目は、同じ領域の企業を継続的に取り込んでいく『ロールアップM&A』です。当社の事業と親和性の高い企業を、日本、欧米で買収していくことが最優先。もうひとつは、ボルトオンのM&A、CO2可視化を中心としたバリューチェーンを垂直統合していくことです」

左から、アスエネ Founder 代表取締役CEO 西和田浩平、Secaro CEO トビー・ニューマン。
左から、アスエネ Founder 代表取締役CEO 西和田浩平、Secaro CEO トビー・ニューマン。

今回のM&Aは前者に位置づけられるが、欧州に強い現地の経営陣や人材の獲得という狙いもあるという。アジアに強いアスエネと組み合わせることで、グローバルサプライチェーン全体を支援できる体制が整う。

これら3つの出来事は、アスエネが目指す「AIサステナビリティ統合カンパニー」への布石となった。西和田は、3つの柱によってそれを推進する方針を示す。ひとつ目は、中核事業で世界一を狙うことだ。

「CO2可視化やサプライチェーンマネジメント、AIエネルギーマネジメントといったコアプロダクトでグローバルナンバーワンのポジションを確立する。そして、周辺サービスまで含め、お客様への提供価値を最大化していきたいと考えています」

ふたつ目は、連続M&Aの実行だ。「『シリアルアクワイアラー(連続買収企業)』になることを目指しています。経験が限られるなかでスポットで大型案件に挑んでも、成功確率は決して高くありません。重要なのは買収することではなく、継続的に買収とPMIを成功させる型や仕組みをつくり、再現性のあるM&Aを実行することです」

そして3つ目は、脱炭素・エネルギー領域でナンバーワンの「AIネイティブカンパニー」になることだ。

「現時点では、この領域でそこまでAIに振り切った企業はまだ存在していません。だからこそ、誰よりも早くそのポジションを確立したい。組織全体のAIトランスフォーメーションを進めることはもちろん、既存プロダクトへのAI実装、AIエージェントの開発、新たなAI事業の立ち上げまで、複数の取り組みを同時並行で進めていきます」

世界規模で拡大するサステナビリティ関連市場において、アスエネは日本発の「AIサステナビリティ統合カンパニー」という新たなポジションの確立を目指す。その挑戦は、今回の資金調達とM&Aによって、次のフェーズへ進もうとしている。

アスエネ │ ASUENE
https://asuene.com

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にしわだ・こうへい◎慶應義塾大学商学部卒業。三井物産で国内・海外の再エネ新規事業投資・M&Aを経験。ブラジル駐在時に分散型省エネ企業出向、PMI、M&Aとベンチャー投資を経験。2019年アスエネを創業。6カ国でAIサステナビリティ事業を展開中。250億円資金調達。8件のM&A実行。2026 Forbes Japan起業家ランキング第5位選出。東京大学大学院共同研究員、慶應義塾大学Keio STAR客員研究員を兼任。著書「世界で勝てるGX」を出版。

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