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カルチャー

2026.06.23 13:30

丸太3本8000円の現実を変える。建築家・佐野文彦が挑む「400年の森林経営」

吉野の森(撮影:佐野文彦)

吉野の森(撮影:佐野文彦)

神社仏閣に使われる木は、数百年という途方もない時間をかけて育つ。その時間を引き受け、未来の森を育てる事業を建築家の佐野文彦が立ち上げた。

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400年先の森を守る──。そんな時間軸を前提にした森林育成事業「NEW SOIL」が、今立ち上がろうとしている。文化財の修復に使われるような大径木は、数百年かけて育つ。一方で、林業や投資の現場では短期での回収が求められており、その時間軸には大きな隔たりがある。

「神社仏閣やそれにまつわる文化を守ろうとすると、400年単位で木を育てる必要があります。しかし、それを前提にした仕組みは、今の社会にはない。当たり前にある景色や建物、そして文化を、数百年後までどうやったら残せるのか」

そう語るのは、建築家の佐野文彦だ。京都で数寄屋大工として修業を積み、寺院・茶室の改修からホテル、飲食店、インスタレーションまで手がける。樹齢数百年の原木や天然石を用い、素材の個体差を生かしながら空間を構成する点が特徴だ。

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4年ほど前、素材を支える現場で違和感を覚えた。木材の競りで目にしたのは、長い時間をかけて育てられた木が、ほとんど値段がつかないまま流通していく光景だった。価値が評価されるまでの時間と、収益を回収する時間が一致していない。

「50年かけて育った丸太が3本束で8000円。このまま目先の収益を優先すれば、将来必要になる大径木は確実に日本の森から消えてしまう」

そんな危機感から立ち上げたのが、森林育成事業「NEW SOIL」だ。特徴は、日本の木材を海外市場でブランド化するとともに、産地の資源をつなぎ、建築や家具、飲食や宿泊を通じて森や歴史、地域文化を体験できるショーケースのような場を設計・運営する点にある。その収益を植林や森林整備へと再投資することで、短期の収益と長期の育成を両立させる構想だ。

伊勢神宮の式年遷宮のために、推定300年のヒノキを切り出す様子。文化財には、長い年月を経った高品質な木材が求められる
伊勢神宮の式年遷宮のために、推定300年のヒノキを切り出す様子。文化財には、長い年月を経った高品質な木材が求められる(Fumihiko Sano)

数百年という時間をかけて文化財に使われる高品質な木材(1本1000万円規模)を育てるためには、そのふたつの時間軸を同時に引き受けなければならない。こうした二層構造によって、これまで成立しにくかった森林経営を持続可能なかたちに引き直そうとしている。

「文化を守ること自体には価値があっても、それだけでは経済が回らない。だからこそ、足元で収益を生む仕組みを同時に成立させる必要があるんです」

佐野が手がけた日本料理店「はむら」。木の個体差や質感をそのまま引き受け、素材の力を引き出す設計が特徴だ。
佐野が手がけた日本料理店「はむら」。木の個体差や質感をそのまま引き受け、素材の力を引き出す設計が特徴だ。(Daisuke Shima)

現在は京都・花背から、森林、製材、建築、食や宿といった地域の営みをつなぎ、林業と文化が循環するエコシステムの具体化を進めている。木が育ち、使われ、再び森へと還元される流れを、地域単位でかたちにする試みだ。素材の上流にまでさかのぼり、価値が生まれる前提から組み替えていく。数百年という時間を、個人ではなく仕組みとして引き受けることができるか。その問いに対するひとつの解が、今かたちになろうとしている。


さの・ふみひこ◎京都の中村外二工務店で数寄屋大工として修業後、設計事務所などを経て2011年に独立。現場で培った素材観や寸法感覚を基盤に、寺院・茶室の改修からホテル、飲食店、インスタレーションまで幅広く手がける。森林育成事業「NEW SOIL」を推進。

文=松崎美和子 写真=佐野文彦、八木夕菜(ポートレート)

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