1688年創業の西陣織の老舗「細尾」は、1200年の歴史をもつ伝統工芸を世界に広めてきた。インテリア、自動車、そして建築と、前例のない領域への挑戦を繰り返してきた細尾にあるのは、「伝統と革新は対極にあるのではなく、表裏一体のもの」という信念だ。
そして細尾は、時代の変化に合わせて進化を続け、「Microsoft 365 Personal」をはじめとして新たな価値を提供するマイクロソフトの哲学に共感している。受け継がれてきた本質を守りながら、変化を恐れず、新たな体験へと昇華させていく――。
本記事では、細尾12代目当主の 細尾真孝 に、その哲学と実践を聞く。前編では、伝統を未来へ接続するために挑み続けてきた、細尾の革新の軌跡を追う。
西陣織を世界へ開いた150cm織機
2010年、画期的な織機が誕生した。開発したのは、元禄元年(1688年)から続く西陣織の老舗「細尾」だ。その革新性は、従来の常識を覆す150cm幅の西陣織を実現した点にある。従来、西陣織の幅は約32cm。帯を前提とした“ヒューマンスケール”の規格であり、1200年の歴史のなかで大きく変わることはなかった。しかし細尾は、その常識そのものを問い直した。
「今でこそ西陣織というと帯のイメージが強いですけど、本来は装束にも使われていましたし、インテリアにも使われていました。つまり、西陣織は帯というより、織物という素材でした。私たちも、織物とは本来そういうものだと思っています。だからこそ、最高の素材として世界に展開したい。ただ、そのときに大きな壁となったのが西陣織の“幅”でした。グローバル市場で求められるのは、壁紙やソファ、カーテンなど広幅の素材であり、32cm幅では、世界市場で素材として勝負する土俵に立てなかったのです」
そこで細尾が挑んだのが、新たな織機の開発だった。
細尾にとって、伝統とは単に「昔と同じことを守り続ける」ことではない。時代が変化し続ける以上、自らも変化しなければ伝統は生き残れない――。その思想こそが、西陣織を世界へ押し広げる革新の原動力となった。
「伝統には“引力”があります。私はその伝統を信じているからこそ、思い切って遠くまで飛び出せるし、違う領域にも挑戦できます。だからこそ、伝統を信じながら新しいことに挑戦していく。それでもなお残るものこそが、未来へ受け継ぐべき本当の伝統なのではないかと考えています」
細尾は、西陣織1200年の歴史そのものが「挑戦の積み重ねだった」と語る。
「室町時代には応仁の乱がありましたし、江戸時代には奢侈禁止令もあった。明治維新によって国の体制そのものが変わり、それまでの顧客や価値観が一気に失われた時代もありました。そのたびに、先人たちは命がけで新しい挑戦をしてきました。場合によっては、大きな困難を乗り越えながら、時代に適応するためのイノベーションを積み重ねてきた。その軌跡が積み重なった結果として、今の西陣織があります。だからこそ挑戦し続けなければならない。伝統というのは、守るものというより、挑み続けることではじめて受け継がれていくものだと思っています」
そうした挑戦の積み重ねの先に生まれたのが、150cm織機だった。06年頃から細尾は、先代が海外に挑戦してきた。しかし成果には結びつかず、社内には「着物も大変なのに、なぜ海外なのか」という空気もあったという。転機が訪れたのは08年。パリの装飾美術館で開催された、日本とフランスの国交150周年を記念した展覧会への出展だった。
「伝統工芸品だけでなく、ゲーム機やカメラなど、日本が誇る完成度の高いものづくりを集めた展覧会が非常に好評で、翌09年にはニューヨークに巡回しました。それが終わった直後に、一通のメールが届きました。『展覧会で見た帯の技術を使ってテキスタイルを開発したい』と。その送り主は著名建築家のピーター・マリノさんで、一流ブランドの店舗のインテリアや内装に西陣織を使いたいとのことでした」
その依頼をきっかけに、細尾は織機の開発に本格的に取り組む。織幅を約5倍に拡張するという挑戦は、構造的な難易度が飛躍的に高まった。しかし約2年に及ぶ試行錯誤の末、ついに150cm織機が完成する。それは単なる大型化ではなく、西陣織を“世界の素材”へ変える転換点だった。
先人たちとともに未来への挑戦を続ける
細尾が掲げるコンセプトは「More than Textile」。織物を単なる装飾や素材としてではなく、人間の根源的な価値と結びついた存在として捉える。人の感覚や空間体験に働きかける存在として再定義しようとしている。
「人類全体で見れば、織物には9000年の歴史があります。でも、もし目的が単に暖を取ることだけなら、別に織る必要はありません。毛皮を巻けばいい。それなのになぜ人間は、わざわざ膨大な時間と手間をかけて、美を求めるのか。そこに、人間という存在の本質に通じるヒントがある気がしています。今はデジタルやAIが進化して、いろんなものが高速化され、効率化されている。これは本当に素晴らしいことですが、一方で、ショートカットできないものの価値も高まってきていると感じています。伝統をベースにしながら、そこに現代のテクノロジーをもち込んで、さらに美しいものを追求していく。それが、自分たちのものづくりの姿勢です」
150cm織機の誕生以降、細尾の挑戦はさらに広がっていく。ラグジュアリーブランドへの展開だけでなく、2020年には高級車のグローバルモデルのドアトリムにも採用された。さらに25年に開催された大阪・関西万博では、パビリオンの外装にも挑戦した。
「幅65m、高さ14m、約3,500㎡にも及ぶ織物で建築全体を覆うプロジェクトでした。しかも、屋外なので耐候性も求められる。西陣織の歴史のなかでも、誰も踏み込んだことのない領域だったと思います。でも、今のテクノロジーと組み合わせることで、それを実現できた。結果として、“世界最大の織物建築”としてギネス世界記録にも認定されました」
細尾はこうした前例のない挑戦も「着物文化の延長だ」と強調する。
「新しいことに取り組んでいると『もう着物はやっていないんですか』と言われることがありますが、今もしっかりとそこに軸を置いています。むしろ、新しい展開もすべて着物文化の延長だと捉えています。着物とは『着るもの』です。人が着れば着物になり、空間がまとえばインテリアとなり、構造物がまとえばパビリオンになる。美しい織物には人を感動させる力があり、『何がまとうか』は時代ごとに変わっていくものだと思っています」
挑戦を続ける細尾は先ごろ、日本マイクロソフトのPR動画に出演した。インターネット黎明期に登場した Microsoft Office を、現在はサブスクリプション型サービス「Microsoft 365」としても提供するなど、マイクロソフトも革新に挑み続けている。細尾は、それと自身の思想に共通点を感じているという。
「伝統と革新は、対立するものではありません。光と影、表と裏のように、互いに支え合う存在です。革新なくして伝統は続かず、伝統なくして革新も生まれない。その本質を大切にしている点に、非常に共感しています」

長年にわたり、マイクロソフトは多くの人々の仕事や創作に寄り添ってきた。使い慣れた Microsoft Office の操作性を継承しながら、AIをはじめとする最新技術を取り込み、新たな体験へと進化させている。その姿勢は、伝統を守りながら新たな価値を生み出そうとする細尾の挑戦とも重なる。
そんなマイクロソフトが提供する Microsoft 365 は、今もなお細尾の創作活動を支える重要なツールとして活用され続けている。
さあ、ご一緒に。Microsoft 365 キャンペーンサイト
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ほそお・まさたか◎ 元禄元年(1688年)創業の西陣織・細尾12代目。1978年京都生まれ。音楽活動などを経て2008年に家業へ。伝統的な西陣織の技術を基盤に、他分野との接続を図りながら領域を横断し、国内外で高い評価を受ける。近年はシアスター・ゲイツら現代アーティストとの協働やテクノロジーとの対話を通じ、工芸を制度や産業の枠を越えるメディアとして再定義している。



