中東の紛争が2カ月以上にわたって続く中、旅行業界の情勢は複雑を極めている。中東から遠く離れた旅行者の中には、旅行を完全に取りやめるのではなく、目的地や時期、移動手段を変更する人が多く見られる。一方、紛争地域に近い人々にとっては、状況ははるかに厳しい。
国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は先月、欧州では航空機の運航を維持できるジェット燃料がわずか6週間分しか残っていないと警告したが、その期限も間近に迫っている。実際、航空便の欠航や経路変更が相次ぎ、輸送費も上昇している。だが、現時点では、欧米の状況はおおむね収束に向かっているようだ。
英運輸省によると、5月3日~6月14日までの6週間で、英国発の旅客便約1200便が運航中止となった。これは予定便数の1%未満に過ぎない。英政府は、航空会社は「現時点ではジェット燃料の不足に直面しておらず、今後の旅行計画を変更する必要は今のところない」と明言している。
欧州各国の観光機関を代表する欧州旅行委員会(ETC)は、今年の欧州観光に関する報告書を発表し、中東情勢の混乱が世界の旅行動向を再編しつつあると指摘した。しかし、現時点では「欧州は安全面での評判と域内需要の強さにより、影響は比較的限定的だ」と報告した。他方で、「継続する不確実性とジェット燃料不足が、この見通しにさらなる下振れリスクをもたらす可能性がある」とし、紛争が続けば事態が悪化する余地を残している。
中東の旅行業界の状況は深刻で、欧州のニュース専門放送局ユーロニュースの報道によると、1日当たり約6億700万ユーロ(約1100億円)の損失が出ているという。
経路や移動手段を見直す旅行者が増加
最近のデータによると、欧米の旅行者は状況に適応しつつあり、旅行先を見直している(自宅から近い場所や、安価で行きやすい場所を選ぶ)ほか、移動手段も調整している(長距離の飛行機より自動車や電車を利用する)ことが示されている。
米ホテル・ロッジング協会(AHLA)は、来月開幕するサッカーワールドカップ(W杯)がホテル予約の伸びには結び付いていないことを示す新たなデータを公表した。同協会は、米国のビザ(査証)取得の障壁や地政学的懸念が海外からの需要を抑制していると指摘した。物価の上昇も旅行需要低迷の主な要因として挙げられる。
交通予約アプリを運営する独オミオは、欧州全域で鉄道とバスの予約が2桁成長を記録したと発表した。同社のベロニカ・ディクアトロ部長は、「高騰する光熱費や住宅費、燃料価格により、消費者は経済的圧力と不確実性に直面しており、航空便の遅延や欠航などの混乱が消費者の心理的・金銭的負担を増大させている」と指摘した。他方で、「旅行者は休暇を諦めるのではなく、旅行経路や交通手段、時期を調整して、自分に合った旅行を実現しようとしている」という。



