人間のキスの歴史は、約2100万年前、中新世の熱帯雨林の樹冠から始まる。そこでは、私たちの類人猿の祖先たちが、ロマンスとは無関係の、生存に直結する理由から、唇を重ねていた。
まずは、最大の誤解を解いておこう。キスというもの、少なくとも唇を合わせるという行為そのものは、人間だけのものというわけではない。とはいえ、「人間特有のもの」という感覚は、直感的には理解できる。私たちは、この行為を中心に文化の体系を築き上げてきた種だからだ──約4500年前のメソポタミアの粘土板に刻まれた最古のキスの記録から、地球上のあらゆる社会の求愛、挨拶、別れの儀式に至るまで。
だからこそキスは、私たちに特有のものであるように感じられる。しかし、生物学はそうではないと示唆している。
チンパンジーはキスをする。ボノボもキスをする。オランウータンは、社会的緊張や和解の場面で唇を重ねる。『Evolution and Human Behavior』で2025年に発表された英オックスフォード大学の研究では、霊長類の系統樹における「キスの進化」の歴史が追跡された。
研究論文の著者らはこの行動について、人類及びすべての大型類人猿の共通祖先、つまり、私たちの種が出現する約2100万年前にさかのぼる可能性が高いと結論づけた。
絶滅した近縁種であるネアンデルタール人も、ほぼ間違いなくキスをしていた。この結論は、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人が唾液の交換を通じて口腔内細菌を共有していたこと、そして、両者が交雑していたという証拠によって裏付けられている。
つまり問題は、なぜ人間はキスをするのかということではない。もっと興味深いのは、なぜ私たちはこれほどまでに、文化的な重みと神経化学的な強烈さ、感情的な影響を伴うような形でキスをするのかということだ。
人間のキスにまつわる進化上の難問
話を進める前に、その行動を正確に定義しておこう。種間比較を行うため、研究チームは、ロマンチックなイメージを排した定義に落ち着いた。キスとは、食物の受け渡しを伴わない、非攻撃的な口と口の接触だ。
この定義は、魅力に欠けるかもしれない。しかし、この最小限の定義でさえ、太古から深く根付いた何かを捉えていることがわかった。だが、キスが科学的に不可解であるのは、従来のダーウィンの論理に従えば、そもそも存在してはならないはずだからだ。
口と口の接触は、病原体の伝播において、極めて効率的な経路だ。唾液には、数百種の細菌や多数のウイルスが含まれており、そのなかには深刻なものもある。この行動は、直接的なエネルギーの確保につながるものではないし、防御につながるものでもない。少なくとも表面的には、生存確率を高めるものではない。それどころか、進化の帳簿という冷徹な視点から見れば、それはコストのかかるものだ。
それにもかかわらずこの行動は、人間だけでなく、数百万年にわたる霊長類の進化においても存続し、私たちの系統の歴史における生態系の大変動をすべて乗り越えてきた。



