ロシアのウクライナ侵攻は、海戦の様相をも変えつつある。ウクライナは、爆薬を積んだ無人の小型艇でロシア黒海艦隊に大きな損害を与え、安価な無人艇が高価な軍艦を脅かせることを実証した。米軍も、こうした「水上ドローン」(無人水上艇、USV)への関心を強めている。中東のホルムズ海峡をめぐる緊張が長引き、米海軍の能力不足が露呈したことも、その動きを加速させた。
この分野に参入した1社が、2024年1月に設立された米ロードアイランド州プロビデンス拠点のHavoc(ハボック)だ。創業者ポール・ルウィン(40)は、10歳で母国ビルマ(ミャンマー)を逃れて米国に渡り、海軍で11年間勤務した経歴を持つ。Havocは船体を自社で造らず、多数の無人艇を群れ(スウォーム)として制御するソフトウェアに特化する戦略をとる。同社は2026年5月、1億ドル(約158億円。1ドル=158円換算)の資金調達を発表した。ただし、その前途には、評価額約9.48兆円で資金調達中と報じられるAnduril(アンドゥリル)、また約1.46兆円とされるSaronic(サロニック)といった競合が立ちはだかる。
ノートパソコンでゲームのように操作、無人艇の群れを動かす
曇り空に覆われた4月のある日、ロードアイランド州ナラガンセット湾の沖合に出たポール・ルウィンは、一見すると古いビデオゲームで遊んでいるかのようだった。簡素な小型船の甲板で彼は、小さな船のアイコンがいくつも表示されているノートパソコンの画面に向かっていた。ルウィンはその一部をマウスで囲み、条件をいくつか指定して「Start Play」をクリックした。すると数秒後、約1.6キロ先の海上に浮かぶ無人艇群が、鮮やかな青い航跡を描くアイコンに合わせるかのように並んで進み出した。ルウィンは満面の笑みを浮かべた。
これらの無人艇は、いずれもルウィンの会社Havocの主力艇「Rampage」だ。全長約4.3メートルのこの船には理論上、1人の人間が数千隻を同時に操作できるテクノロジーが搭載されている。
ルウィンと共同創業者ジョー・ターナー(42)は、2人とも米海軍の出身だ。彼らは、最近、小規模な空・陸の無人機企業を買収したHavocを、水上ドローンだけでなくあらゆる領域の無人システム向けに専用ソフトを手がける企業に育て、米軍にとって頼りになる存在にしようとしている。
「目標は、ロボティクスや自律制御について何も知らなくても済むようにすることだ」。ルウィンはそう説明し、ノートパソコンで操作手順を改めて示した。「これくらい簡単でなければ、ただの科学の実験にすぎない。運用者は──とりわけ、ロボティクスの博士号も探索アルゴリズムの博士号も持たない前線の兵士は──これより難しければ決して使おうとしない」。
CEOであるルウィンは、製品を実際に見せるのが1番だと信じているため、潜在的な投資家や顧客向けのデモに多くの時間を費やしている。彼は、議員を訪ねる際にも、Havocの船をライブ映像で見せ、その場でデモを披露している。このやり方は成果を上げている。Havocは米国時間5月12日、投資会社CobaltとBoardman Bayが主導したシリーズAラウンドで、1億ドル(約158億円)を調達したと発表した。これにより、同社の累計調達額は以前の2倍以上の2億ドル(約316億円)弱に達した。創業から2年半に満たないHavocは、競争が激化する水上ドローン分野で、資金調達額で上位に入る有力企業の1社となった。
船体は自社で造らず、ソフトウェアに特化する戦略
ただし、この分野には巨大な競合がいる。自律型艇分野で最も著名なのは、創業3年半のスタートアップ、Saronic(サロニック)だ。同社は2026年3月、17億5000万ドル(約2765億円)を調達した。その際の評価額は92億5000万ドル(約1.46兆円)という目を見張る水準だった。ルウィン自身はHavocの評価額を明かしていないが、PitchBookが推定する7億8400万ドル(約1239億円)については、実態に近く「少し高い程度だ」と認めている。それでもHavocは2025年、米陸軍のイノベーション・コンペ「xTechPacific」でSaronicを破っていた。
両社は、同じ市場の中で異なる領域をターゲットとしている。米国の造船産業の復興を理念に掲げるSaronicは、自社で船を製造している。一方、Havocは船体を自社で造らず、外部から購入するか製造を外部に委託した船体に同社が強みとするソフトを搭載する。ルウィンは製造を外部に委託することで「自社で一から作る必要のないもの」を避けている。実際、造船は費用がかさみ、時間もかかることで知られている。
ルウィンは「我々は本当の意味で、ソフトに軸足を置く唯一の海洋関連企業だ」と語る。彼によれば、米軍ではハードウェアを伴わないテクノロジーを購入する考え方がまだ十分に浸透していない。そのためHavocは今のところ、ソフトと船体をセットにして提供する必要があるという。
Havocのテクノロジーの根幹を成すのは、船の経路計画と意思決定を自動化する一連のアルゴリズムだ。このアルゴリズムは、各艇に搭載された金属製の箱の中のGPU上で動く。Havocの船は通常、群れ(swarm。スウォーム)で動く運用を想定しており、カメラとセンサーで周囲の状況を把握し、その情報をモデルに送る。無線機とスターリンクのアンテナを搭載した各艇は、ローカル通信の「メッシュ」で船団全体とつながっているため、一部の船が停止しても、残りの船は通信を維持できる。
「軍が保有するどんな船でも、自律航行型に変えられる。我々は、特定のモーターやアクチュエーターに依存しない仕組みにするために、すべてをモジュール化した。仮に見たことのないモーターを渡されたとしても、2週間もあればそれに接続する方法を見つけられる」とルウィンは語る。



