経済・社会

2026.05.16 21:22

送電網の停滞がAI覇権を脅かす──米国が直面する「地政学的コスト」

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米国は今後10年間で1兆ドル規模のAI関連資本を投入しようとしているが、その投資には深刻なボトルネックが存在する。変圧器、変電所、送電線の拡張には、それらが電力を供給するデータセンターの建設よりも何年も長い時間がかかるのだ。この不均衡は単なるロジスティクス上の問題ではない。米国の生産性に上限を設け、AI主権を直接脅かす要因となっている。

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インフラは今や、グローバルなテクノロジー覇権を決定づける究極の要素だ。米国は最も優れたコンピューターモデルやサーバーを設計できるが、高密度コンピューティングに必要な膨大な電力、水、相互接続なしには稼働させることができない。送電網がそのペースについていけなければ、AI競争は知的イノベーションの問題ではなく、既存の電力、土地、送電容量をめぐる生々しい「土地の争奪戦」へと変質する。

「エネルギー消費の急増は、電力網への投資が何年も不十分だった時期の後に訪れており、データセンター開発業者は特に2027年と2028年に電力不足に直面する可能性を懸念している」と、モルガン・スタンレーのアナリストは2026年のエネルギー市場見通しで指摘している。

このタイムラインの乖離は、現代における「経済的チョークポイント(ボトルネック)」である。ハイパースケールデータセンターのキャンパスは約18〜24カ月で建設できるが、それに電力を供給するためのインフラ──新規送電線、変電所のアップグレード、配電回路の強化──には5〜10年かかることがある。

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送電網運営者への系統連系待ちの案件は、新規電源、蓄電池、大型負荷が混在し、膨れ上がっている。待機案件の一部は風力や太陽光などの新規発電設備や追加のガス火力発電所であり、一部はピークを平準化し再生可能エネルギーを統合するための蓄電設備だ。そして一部はAI駆動のデータセンター、産業施設、電気自動車充電ハブなどの新規需要である。

数十ギガワット規模の潜在的容量が、技術調査、承認、資金調達を待ちながら宙ぶらりんの状態にある。データセンタープロジェクトは遅延し、投資家は苛立ちを募らせ、地域社会は約束された雇用や税収が実現しないまま、AIブームを支える送電網が計画段階にとどまっているのを見守っている。

この費用は誰が負担するのか。実際には、電力会社は送電網のアップグレード費用を全顧客に分散した料金で回収するのが通例であり、一般家庭や中小企業がAI関連負荷のためのインフラを補助金的に負担することになりかねない。経済的リスクは非対称だ。家庭は料金を通じて建設費を支払うが、AIバブルが変調をきたしたりプロジェクトが中止されたりした場合、料金負担者は誰のためにもならない「座礁資産」となった高圧インフラのツケを払わされることになる。

「ハイパースケーラーが中規模都市に匹敵する電力を消費するのであれば、彼らにサービスを提供するインフラのコストは料金負担者ではなく、彼ら自身が負担すべきだ」と、テキサス州オースティンのwebAI社CEOデビッド・スタウトは語る。

失敗はAIリーダーシップの明け渡しを意味する

建設に失敗した場合のコストは何か。短期的には、AI成長の制約、資本の座礁、生産性向上の鈍化だ。長期的には、より中央集権的で柔軟性があり、特定セクターを他より優先する意思のある国々に人工知能のリーダーシップを明け渡すことを意味する。特に中国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)では、国家がAI関連負荷のために送電・発電設備を効果的に過剰整備できる。

需要は3つの波が重なり合いながら押し寄せている。

  • AIサージ:中規模都市に匹敵する電力を消費するハイパースケーラー
  • マクロ電化:EV、ヒートポンプ、産業プロセスの電化が同時進行
  • レガシー赤字:1970年代の予測可能な負荷に合わせて建設された老朽化した送電システムが、2026年の変動の激しいスパイクに直面

ハーバード大学ケネディスクールのベルファーセンターは、データセンター需要が2023年の米国総電力の約4.4%から、AI駆動のワークロードに押し上げられて2028年までに6.7%から12%の間に成長する可能性があると推定している。ゴールドマン・サックスのアナリストは、データセンターがすでに米国総電力の約6%を消費しており、そのシェアは2030年までに11%とほぼ倍増する可能性があると付け加えている。

送電網はもはや、工場や家庭からの安定した予測可能な需要に対応しているわけではない。数分で1ギガワット以上の電力にまで急増する可能性のある特殊なコンピューター群に対応しなければならないのだ。これにより、送電網は比較的安定した予測可能なシステムから、より変動が激しく反応的なシステムへと変貌する──バランスを取るのが難しく、計画を立てるのが難しく、突然の変動に対してより脆弱になる。

こうした圧力はすでにバージニア州北部で顕在化している。「データセンター・アレー」と呼ばれるこの地域は、送電網対AIの対立の最前線となっている。この地域は世界のインターネットトラフィックの約70%を処理しており、事実上のデジタルチョークポイントとして機能している。今やAI駆動の新規負荷が奔流のように押し寄せており、電力会社と送電網運営者は今後10年間でデータセンターからの数十ギガワットの追加需要に備えている。

サイバーセキュリティと混乱

この回廊に電力を供給するドミニオン・エナジーは、今後数年間でデータセンターから約7万メガワットの新規負荷が発生する可能性があると規制当局に警告している。これは、この地域のために建設された送電容量をはるかに超える数字だ。

「送電網がペースについていけなければ、米国はAI競争に負ける。それで終わりだ」と、ヒューストンを拠点とするConvention of States Actionの会長マーク・メッカーは語る。「AIは人類史上最もエネルギー集約的な技術革命であり、データセンターに信頼性が高く、豊富で、手頃な電力を供給できる国が、次の100年のコンピューティング、防衛、金融のルールを決めることになる」

これらの新規プロジェクトは税収と雇用をもたらすが、同時に地域の水資源を圧迫し、送電線を混雑させ、他の顧客の電気料金を押し上げる。一部の州では、AI関連負荷に送電網アップグレードのより多くの費用を負担させる新しい料金体系を試験的に導入し、一般家庭や中小企業を全額負担から守ろうとしている。

問題は電力会社のフェンスの内側だけでは終わらない。送電網が照明を点け、AIモデルを稼働させるだけで容量いっぱいで運用されていれば、突然の停電に見舞われたり、国家支援のサイバー攻撃の標的になったりする可能性がある。筆者は最近、ポーランドとイタリアのインフラを標的にしたロシア主導のサイバー攻撃を調査し、物理的な限界まで追い込まれた送電網は、協調された国家支援の攪乱に耐えられないことを確認した。この脆弱性は、エネルギー安全保障とAI覇権を直接結びつけている。

送電網は根本的に容量が不足しているのではなく、単に管理が不十分なだけだと主張する専門家の声が高まっている。彼らは、ほとんどの先進国の送電網は平均的な日には理論上のピークのごく一部の容量で運用されていると指摘し、より良い調整、デマンドレスポンス、「ソフトウェア定義グリッド」ツールによって既存資産からはるかに多くの価値を引き出せると主張する。

しかし、最も柔軟な送電網であっても、ピーク需要に対応するための十分な物理的容量がなければならない。データセンター開発業者が系統連系に4〜5年も待たされているのであれば、柔軟性だけでは問題を解決できない。負荷を分散させることはできるが、アップグレードなしではこれ以上のメガワットを運べない送電線の物理法則を変えることはできないのだ。

AI時代は清算の時を迫っている。我々は21世紀の情報革命を、いまだに20世紀の遺物である送電網の上で動かそうとしているのだ。実際、ゴールドマン・サックスは、2030年までにほぼすべての米国の送電網がデータセンター需要を満たす容量を欠くことになると推定している。

エネルギー安全保障とAI覇権は、もはや別々の議論ではない。再生可能エネルギー、蓄電設備、データセンターを破綻なく統合できるレジリエントで柔軟な電力システムを構築できる国は、純粋なソフトウェアイノベーションでは代替できない優位性を持つことになる。AI覇権をめぐる競争において、地中の銅線はチップの中のシリコンと同じくらい重要なのである。

forbes.com 原文

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