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2026.05.19 13:30

ライフシフト著者による「AI時代に70代まで生産性を維持する秘訣」:リンダ・グラットン

企業リーダーの「真の課題」

──米ハーバード・ビジネス・レビューの2025年12月22日付記事「AI Is Changing How We Learn at Work(AIが職場での学び方を変えつつある)」で、AIが仕事に及ぼす影響を案じていますね。

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グラットン:まず、AIはスキルの「習熟・熟練」に影響を及ぼす。人は、おびただしい量の実践や練習、数々の失敗、メンターなどによるフィードバックのおかげで、専門知識や判断力がつき、自らのアイデンティティを形成することができる。

しかし、AIがそれを代行し、近道を提供してくれることで、習熟への自然な道筋が阻まれてしまう。人間の発達が単に学習量を増やすことではなく、アイデンティティの変容だとすれば、AIは人間の発達にとって何を意味するのか? アイデンティティは実践や練習、フィードバックで変わる。確かにAIで仕事は早くなるが、果たして、それでアイデンティティーは変わるのか?

また、AIを多用すると、逆に仕事が増え、慌ただしさが増すという問題もある。生成AIで、いとも簡単に完成する文書やプレゼン資料、報告書の山に埋もれ、熟考が難しくなる。容易に情報を手にできるため、深く考えなくなってしまう。

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人間味が薄れることへの懸念もある。AIは共感力をシミュレートすることはできるが、共感や判断力を育むような交流は無理だ。AIには複雑な会話が難しく、人の感情を察知できない。AIとやり取りしていると、人間らしさが失われがちだ。

最後の懸念は、選択やアイデンティティの形成が困難になることだ。アイデンティティ形成とは、何をどのように学ぶかについて自ら選択を行うことを意味する。AIが選択の多くを担い、次のステップを提案し、意思決定を自動化するとしたら、何が起こるか? 熟考し、自ら選択を行い、その決定に責任をもつ力がそがれてしまう。

人は誤った決定を下すこともあるが、選択をすることで学んでいく。AIがそれを肩代わりすると、人間の成長と発達の原動力が奪われてしまう。

生成AIには多くの利点がある。しかし、AIが人間の自然な学習経路を奪うという事実をどう考えるか、といった問いを発することが重要だ。AI時代には、人々が発達と成長を重ね、人間ならではの能力を伸ばし続け、最も有能な自分になれるよう心がけることが大切だ。

最大のカギは、内省や熟考、意思決定、探求の時間を確保することだ。AIで仕事量が増えるなか、私たちはどのように熟考し、人間とは何かについて考えるための時間を生み出せるのか?

──リーダーは企業の成長と従業員の成長を両立させるために、AIをどう活用すべきですか。

グラットン:そのふたつの成長を両立させるべくAIを活用することこそが、企業リーダーの務めだ。まず、AIによる生産性向上を認識し、従業員がAIで実験を行い、学びを得られるよう後押しする必要がある。前作『リデザイン・ワーク 新しい働き方』(池村千秋・訳、東洋経済新報社)で書いたように、働き方のリデザインも必要だ。

容易にはいかないが、企業と従業員の双方が、AIによる生産性向上から恩恵を得られるようにすることが、企業リーダーの「真の課題」だ。仕事のリデザインのみならず、人間であることの意味を認識することも非常に大切だ。

KEYWORD 03|リデザイン・ワーク
『リデザイン・ワーク 新しい働き方』(翻訳版は2022年10月発売)で、リンダ・グラットン教授は、「仕事のあり方」、ひいては「働く意味」「人生の豊かさ」をリデザインすることを提唱。「人間的な豊かさ(ウェルビーイング)は『成果』に直結する」とも指摘し、話題を呼んだ。

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インタビュー=肥田美佐子 イラストレーション=エステバン・プラジバット

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