会場に足を踏み入れると、天井から言葉が降りてくる。
番組に出演したゲストたちの言葉が、細長い帯になって展示室の上方から垂れ下がっている。壁に掛かった絵を見上げようとすると、その手前に、だれかがかつてこの作品について語った一節がふわりと視界に入る。

見ているのは絵なのか、言葉なのか。そのどちらでもある不思議な気持ちのまま歩きだすと、ふと気づく。ああ、自分はいま、日曜美術館のなかにいるんだ。
「NHK日曜美術館50年展」(東京藝術大学大学美術館、6月21日まで)は、放送50年を迎えた美術番組のアーカイブを、120点超の名品と番組出演者たちの言葉、約100分の放送映像を空間に仕立てた展覧会だ。
声と作品が同じ部屋にいる幸福
5章構成の会場には、伊藤若冲、曾我蕭白、フランシス・ベーコン、志村ふくみ、加山又造、李禹煥、岡本太郎、諏訪敦、舟越桂、山口晃といった作家の作品が並ぶ。錚々たる顔ぶれだ。
ベーコンの絵は間近で見ると思いのほか大きく、画面から発せられる圧に足が止まる。そして、大江健三郎がベーコンを語った2013年5月5日放送の言葉が、そのそばに添えられている。
かつてのこの番組の司会であり、本展の音声ガイドナビゲーターも務める俳優の井浦新は、内覧会でこう話した。
「自分のまだ知らなかった時代の日曜美術館、その時のゲストの方の素敵な言葉と出会うことができる」
視聴者として約25年、司会者として5年。それでも半世紀のアーカイブにはまだ知らない言葉が眠っているという。約25年つきあった相手にまだ新鮮に驚ける。それはなかなか得がたい関係ではないかと思う。

現在の司会者である坂本美雨は、この展覧会で生まれる体験を語る。
「色々なジャンル、さまざまな年代の美術に触れられる展覧会で、作品との出会いから作品と自分が共鳴する。そんな時間を味わいにいらしてください」
歴代の司会者やゲストが紡いできた言葉のバトンを受け取って、いま毎週届けている坂本がこう言うのだから、これはやはり足を運ぶ価値のある場所なのだと思う。
第4章「災いと美」では、パブロ・ピカソ《ゲルニカ》が原寸大の高精細映像で展示されている。マドリードのソフィア王妃芸術センターから一歩も出ることのない門外不出の大作を、NHKが超高精細カメラで撮影したものだ。スクリーンのサイズは、タテ約3.5m、ヨコ約7.8m。
この映像が面白いのは、現地で本物の前に立っても肉眼では捉えきれない筆の跡まで映し出すところだ。つまり「会えないかわりの代用品」ではない。本物を前にしたときとは違う角度から、ピカソの手の動きに迫ることができる。
そのかたわらで、1980年の放送で岡本太郎がゲルニカを語る声が流れている。太郎の興奮がこもった声と、高精細映像で浮かび上がる筆致。時代も手法もまるで違うふたつの熱が、同じ部屋のなかでぶつかっている。



