全国の「好き」が上野に集まった
もうひとつ、この展覧会で嬉しいのは、地方の美術館から集まった作品の厚みだ。山口県ゆかりの香月泰男(山口県立美術館蔵)、福島や岩手の作家たち。第3章には工芸に光を当てたセクションもあり、人間国宝の漆芸作家・室瀬和美や明治の超絶技巧まで、NHKが毎年欠かさず発信してきた手仕事の世界が広がっている。

首都圏ではなかなか会えない作品が、上野に揃った。藝大美術館の関係者が「NHKさんが本当に頑張ってくれた」と語っていたのが印象に残る。半世紀かけて全国の美術館や作家と関係を築いてきた放送局だからこそ、この充実した展示が実現したのだろう。
第5章では、アーティストのアトリエでの肉声を映像で聴いた後に、その実物の作品と対面するという体験ができる。諏訪敦が遺族の依頼で故人を描くまでの葛藤を語る映像を見て、そして描かれた絵と対峙する。ただ、絵を見つめる鑑賞とは、深さも、角度も違う想像が巡る不思議な感覚を覚えた。
49年346日の日曜の朝
2026年3月、「日曜美術館」はギネス世界記録「週刊ファインアートテレビ番組の最長放送(Longest running weekly fine art TV Programe)」に認定された。放送期間49年346日。認定証はギネスワールドレコーズ ジャパン代表の石川佳織から、井浦と坂本に手渡された。

世界で最も長く美術を語りつづけた週間ファインアートテレビ番組。その数字の裏側には、途方もない数の日曜の朝がある。毎週かならず、だれかが美術について考え、カメラを回し、言葉を選んだ。井浦は取材会で、時代時代のスタッフへの敬意を口にしていた。そういう人たちの手仕事が、あの天井から降りてくる言葉のひとつひとつになっている。
井浦が「ここに住みたい」と形容した一画がある。縄文の土器から始まり、日本美術の名品が並ぶセクションだ。

「好きなものしか集まってない。こんな空間があるんだ」
その気持ちは、たぶんわかる。美術史の教科書のような正しさではなく、だれかの「好き」がぎゅっと詰まった場所には、独特の居心地のよさがある。選りすぐりの本を置いた本棚を眺めるときのような、あの感じに近い。
天井から言葉が降りてくる美術館。50年分の日曜の朝が、120点以上の作品と声になって上野に広がっている。



