中東で石油が発見された19世紀末から今日まで、世界は石油経済をめぐって大きく動いてきた。第一次世界大戦後にオスマン帝国が解体されて幾つかの国家に分割されたのも、ヨーロッパ列強の石油利権のためだった。第二次世界大戦でも石油資源をめぐる闘いが繰り広げられ、戦後は石油の国有化を目指す産油国と欧米との対立が強まった。
映画『ジャイアンツ』でも描かれているようにアメリカは、20世紀初頭にテキサスで大油田が発見されたことで石油産業が発展し、戦後は消費が増大したものの、2000年代後半のシェール革命によって世界最大の産油国となった。従って、かつてほど中東の石油には依存していないが、シェールオイルは超軽質の原油でナフサやガソリンには適していても重油はほとんど採れない。また、原油価格の安定やドル建て決済(ペトロダラー体制)、他国へのエネルギー供給ラインへのコントロール力を維持するといった理由もあって、アメリカは自国以外の油田に関心を寄せ続けている。
事実、トランプ政権は今年1月初旬のベネズエラ侵攻後に同国の石油資源へのアクセス権を獲得し、イラン攻撃においても石油が欲しいと公然と口にし、イランとの協議決裂後はホルムズ海峡を通行するすべての船舶に封鎖措置を取るという強硬策に打って出た。
今回取り上げる『シリアナ』(スティーヴン・ギャガン監督、2005)は、アメリカの中東戦略と石油利権の深い関係を浮かび上がらせた佳作。元CIAの工作員の告発本が元になっており、ハリウッド映画としては自国への批判色の強いやや異色の内容だ。ちなみに「シリアナ」とは中東の架空の国の名であると同時に、アメリカの利益に適うように再構築された理想的な中東地域・国家を指す言葉である。
CIA工作員、エネルギーアナリスト、大手弁護士事務所職員、油田採掘労働者など別々のストーリーが、中盤から徐々に繋がっていく過程がスリリングだ。それぞれの登場人物を主人公にした単独の映画が撮れるほどのドラマ性を孕みつつ、誰に対しても一定の距離を取った描写で淡々とエピソードが積み上げられていく。事態の不穏さを静かに盛り上げる音楽の控えめな使われ方も、ドキュメンタリー的な効果を上げている。
複数のストーリーが次々と入れ替わりながら進行する上、情報量もかなり多いので、まずスポットライトの当たっている主な人物の、冒頭から三分の二あたりまでのストーリーをまとめてみよう。



