以上のようなストーリーの重なり合いによって、アメリカの政財界と軍事を巻き込んだ石油利権構造が徐々に見えてくるが、その中に、登場人物の立場を反映した葛藤や計算や迷いの描写が挟み込まれることで、一人ひとりの人間性も浮かび上がってくる。
冷徹な仕事人間だったボブは、クビを契機にCIAを含めた腐敗構造に怒りを抱くようになる、根っこの部分はまっとうな人間である。用心深く内面を見せないベネットは、自分より上の人間たちの傲慢さにうんざりしているが、生き延びるために良心を捨てる。ブライアンは、家庭と仕事に恵まれたマイホームパパの面を持ちつつ、人並みの義侠心と野心ゆえに危険な領域に足を踏み入れる。ワシームは童貞であることを恥ずかしく思っているような純朴さと、自分たちの過酷な境遇への鬱屈を抱えた生真面目な青年である。
父子関係がそれぞれの人物の背景や心情を浮かび上がらせる材料としてうまく使われているのも、注目すべき点だ。
同業者の妻と別居中のボブは、大学進学を控えた息子の相談相手になれずに失望され、ベネットは同居する休職中の父から邪な上昇志向を見透かされて親子関係が冷えており、ブライアンは長男の死で落ち込んだ状況を打開しようとナシール皇太子との関係を深め、ナシールは優秀なのに父に後継者として認められず危機感を募らせ、ワシームは何も知らない父に万感の思いで別れの手を振る。
また、21年前の作品ながら現在のリアリティに触れてくるようなセリフがいくつもある。印象に残ったものを順に書き出してみよう。
コネックス社の弁護士からベネットへ「(合併が承認されたら)島に別荘がたくさん建つ。君の別荘もだ」。
CIA幹部「イランは宗教色の薄い西側に変わるか?」ボブ「難しい」。
ホワイティング「聖書に書いてある。石の油が光を支配すると」。
イスラム神学校の教師「現代社会の痛みは自由社会では解決できない。キリスト神学は失敗だ。西側は失敗した」。
ベネットの調査で買収の発覚した事業者ドールトン「不正があるから勝てる」。
ナシール皇太子「米国への借りは返した。なのに中国を選んだらテロリスト、コミュニスト呼ばわりだ」「(親米のメシャールが後継者になったら)一万の米軍が我が国にやって来る。米国は衰えている。世界人口の5%の国が、軍事費だけは世界の50%だ」。
中東での石油・天然ガス採掘で莫大な利益を上げるために、「イラン民主化委員会」を称する巨大な利権団体がバックについた世界有数の合弁会社が立ち上がり、CIAが産油国の反米的な皇太子の命を狙うが、切り捨てられた末端からはテロリストが生まれていく……という構図は、アメリカという国が世界に何をもたらしているかを凝縮して見せているようだ。
冒頭で強奪された、胴体にピースマークが落書きされていたアメリカ製の高性能ミサイルが、合併したコネックス・キリーン社の新施設オープン祝賀式の最中、自爆テロによってペルシャ湾に浮かんだ液化天然ガスのタンカーを破壊するラスト。それは、「義」を掲げる側は容赦なく消し去られ、自分たちの利益だけを貪る側が美味い酒を飲むというこの世界の構造への、絶望の一撃である。


