サイエンス

2026.05.01 11:30

人はなぜ暗闇を恐れるのか 太古から受け継がれる拭い去れない恐怖の根源とは?

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最後に暗闇に不安を感じた時のことを思い出してみてほしい。夜の駐車場だったろうか、あるいは電球の切れた廊下だったろうか。午前3時に何やら聞き覚えのない物音で目が覚めた瞬間だったかもしれない。その時のあなたは知らず知らずのうちに胸が締め付けられ、瞳孔が開き、呼吸が速くなっていたはずだ。

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それらの反応はすべて、合理的思考が働く前に起こったものだ。心理学で生理的覚醒と呼ばれるこうした心体反応は、性格的な癖でもなければ、臨床的な不安でもない。それは約100万年にわたり人間の脳内で機能し続けてきた生存回路であり、ほぼあらゆる基準において設計どおり正確に働いているのだ。

私たちは、暗闇に対する恐怖を「子供が抱くもの」とみなし、大人になれば乗り越えられると考えがちだ。小児科医は「発達段階の1つ」だと説明して親を安心させ、社会全体も同様に扱う──4歳児なら愛らしいが、大人ならば少し恥ずかしい反応として。しかし、その見方はほぼ真逆といっていい。暗闇への恐怖は、人類がまだ完全に脱却できていない段階にある。それは人間の資質において最も古く、深く根付いた合理的な恐怖反応なのである。

暗闇の中で人は食物連鎖の頂点に立てない

人類の進化の歴史の大半において、「夜」は文字通り命に関わる危険な時間帯だった。2005年出版の書籍『Man the Hunted: Primates, Predators, and Human Evolution(邦題:ヒトは食べられて進化した)』で著者のドナ・ハートとロバート・W・サスマンは、初期人類は主として狩猟者ではなく、捕食される獲物だったという説得力のある論拠を示した。人類の祖先は頻繁に肉食動物に襲われ、命を落としていたのだ。

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ライオンやヒョウ、ブチハイエナは現代においても主に夜行性の捕食者だが、人類の祖先に対して圧倒的な視覚的優位性を持てる環境で活動していた。明け方や夕方の薄暗さの中でも、ヒョウは人間の目ではほとんど何も見えない距離から獲物を感知・追跡できる。夜の戦場は公平ではなかった。人類の祖先にとって壊滅的に不利な環境だった。

ここにおいて、進化論の理論は反論しがたいものとなる。

タイプの違う2人の初期ヒト属を想像してみてほしい。一方は辺りが暗くなると強い不安を感じ、火のそばに留まって物音にびくびくしている。もう一方はそうではない。このうち生き延びて子孫を残せる可能性が高いのは、不安を感じやすいほうだった。この違いは何十万世代にもわたって蓄積されてきた。私たちが今、駐車場の暗がりに抱く不安感は、その根源において、夜を生き延びた祖先から受け継いだ遺産なのだ。

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翻訳・編集=荻原藤緒

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