サイエンス

2026.05.01 11:30

人はなぜ暗闇を恐れるのか 太古から受け継がれる拭い去れない恐怖の根源とは?

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心理学者のマーティン・セリグマンは1971年に心理学誌『Psychological Review』に発表した画期的な論文で、このパターンを「準備された学習(prepared learning)」と名付けた。ヒトには生物学的に、暗闇、高所、ヘビ、クモといった特定の対象への恐怖を他の生物よりもはるかに獲得しやすい傾向があるというのだ。こうした恐怖は、しばしばたった一度の恐ろしい体験によってすぐさま獲得され、理屈だけでは消し去ることが極めて難しい。結局のところ、100万年もの長きにわたって受け継がれてきた生存回路から、思考によってのみ脱却することはできないのである。

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その理由を正確に立証しようと、神経科学者たちは多くの時間を費やしてきた。脳の奥深くにある小さなアーモンド形の神経細胞群である扁桃体は、意識的な思考を完全に迂回する高速経路を通じて脅威の信号を処理する。暗闇の中など、視覚情報が曖昧だったり欠如していたりする場合、扁桃体は通常「危険を想定する」という保守的な解釈をとる。

これは時に「用心するに越したことはない」という経験則となるが、神経学的に測定可能な方針なのだ。分子精神医学分野の学術誌『Molecular Psychiatry』に2001年に掲載された理論的総説では、この理解をさらに深め、扁桃体は明確に特定された脅威よりも曖昧さに強く反応することが示唆されている。なぜなら、曖昧な状況ほど偽陰性、すなわち真の危険を見逃すことの代償が最も大きくなるからである。

さらに、私たちが暗闇を認識する前に働く生物学的メカニズムもある。科学誌『サイエンス』に発表された2002年の研究論文では、メラノプシンと呼ばれる光受容性色素を含む光感受性の高い網膜神経節細胞の集団を特定した。

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これらの細胞は、通常の視覚を担う桿体(かんたい)細胞や錐体(すいたい)細胞と異なり、像を形成しない。光の有無を検知し、その情報を脳の概日リズム中枢と覚醒中枢に伝達するのが役割だ。光が消えるとこれらの細胞から信号が発され、ストレスホルモンのコルチゾールやノルアドレナリンが放出されて、広範なストレス反応機構に連鎖反応を引き起こす。これは、私たちが警戒心を抱くより先に、暗闇そのものが警報となって肉体が反応することを示唆している。

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翻訳・編集=荻原藤緒

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