壱太郎:そうですよね。だからこそさまざまな方の協力をあおぎました。それまでにお会いした方々の名刺をかき集めて、普段の歌舞伎とは異なる邦楽器奏者やヘアメイクさん、衣装さんなど現代のモード界の方々にも集まっていただいた。
そして20年7月には「ART歌舞伎」が実現しました。セリフの少ない、音楽を交えた舞踊公演で「四神降臨」「五穀豊穣」「祈望祭事」「花のこゝろ」の4部構成の作品を有料配信で上演しました。これが好評を博して海外配信や英語字幕付きの劇場版の上映にもつながりました。
蓮見さんもゼロから「ダウ90000」を立ち上げられたんですよね。
蓮見:はい。2017年に前身となる演劇企画団体を立ち上げたのですが、その演劇公演の評判が良くて。そこから自分は大人数が出演する台本を書くことが得意分野なのだと気づきました。
ただ、お笑いも好きだったので、演劇とコントの両方を続けることを約束して、演劇公演と共にコントの単独ライブを行ってきました。お笑いでは賞レースにもチャレンジをして、21年にM-1グランプリで準々決勝に進出したことで多くの方に知っていただけるようになりました。お笑いファンが演劇公演に来てくれるなど相乗効果も生まれていて、市場が縮小している演劇への入り口を広げていきたいという思いもあります。
壱太郎さんが歌舞伎界で新しいことに踏み切るのは、僕らの何倍も大変だったのでは、と想像します。
壱太郎:業界全体で動こうとすると障壁が高いのですが、「個人」の動きならできると思っていました。「ART歌舞伎」でも、“配信”以外にもさまざまな挑戦をしました。普段は化粧をしない演奏家にもメイクをして前に出てもらうなど、楽しく見せることにもこだわりました。25年11月にはリアル公演を開催したのですが、観世能楽堂に森をつくっちゃいました。水は絶対NGなので全部造花でやります! と言って。
歌舞伎の世界では新しいことをやれば100%、叩かれるんです。いろんなお小言を言われながらも自分を貫いたことで道が開けていく。1980年代に「スーパー歌舞伎」を始めた三代目市川猿之助さんも然りです。当時は「なぜセリフを現代語でやるのか!?」「ふざけるな!」という話もあったのだろうと思います。でも今ではそれがひとつのジャンルとなった。僕も今夏にスーパー歌舞伎「もののけ姫」にサン役で出演するのですが、そうした先人たちの挑戦は自分にとっても大きな指針となっています。


