韓国を訪れた人なら、食堂のおもてなしに驚いた経験があるはずだ。メイン料理を1品頼むだけで、キムチやナムルをはじめとする10品近い副菜が無料でテーブルを埋める。
この豊かな食文化は、学校給食にも受け継がれ、SNSでは「世界最高レベル」と称賛されるほどの量と質を誇る。ところがいま、その給食が「止まる」学校が急増している。
韓国では、今年4月13日、全国学校非正規職労働組合大田支部が大田市教育庁に対して26項目に及ぶ要求書を提出した。
「わかめなしのわかめスープ」
その内容は、現場の過酷さを如実に示している。
豆腐やかまぼこ、肉などの塊食材の取り扱い中止、熱湯消毒による火傷リスクを理由としたスプーンとコップの消毒作業の禁止、5キロを超える洗剤の取り扱い中止、さらに10キロ以上のジャガイモや玉ねぎの皮むき拒否、揚げ物調理は週2回まで、そして副菜はキムチを含む3品のみの提供などが要求書には記されている。
要求は書面だけにとどまらない。ある学校では調理員たちが卵割りや長いわかめの下処理を拒否し、「わかめなしのわかめスープ」が子どもたちに提供された。配膳トレイを洗わないまま全員一斉に病欠申請をしたケース、鶏肉などの食材を放置したまま退勤し廃棄を余儀なくされた事案も報告されている。
こうした争議はいまに始まったことではない。2012年のゼネスト以降、ほぼ毎年繰り返される「常態化したストライキ」となっており、要求内容は年々エスカレートしている。
給食が止まるか、パンやおもちなどの代替食に切り替わった学校は、2022年に全国の25.4パーセント(3192校)、2023年に25.9パーセント(3293校)、そして2024年には31.5パーセント(4004校)と、影響を受けた学校は確実に拡大の一途を辿っている。
労働組合側の主張にも、聞き捨てならない実態がある。
給食調理員の多くは、市や道(日本の県にあたる)の教育庁が採用する無期契約職だ。定年が保証されるという点では恵まれているように見えるが、早期退職率は2024年度で60.4パーセントに達する。
その背景にあるのが、劣悪な労働環境だ。高温多湿で換気設備の不十分な厨房は「有毒な調理場」とも呼ばれ、揚げ物などの高温調理による油煙が肺がんなどの職業病を引き起こしている。
2023年の時点で、178人の給食従事者が肺がんで労災認定を受けており、直近3年だけで74人が診断され15人が死亡したと報じられている。にもかかわらず、換気設備の改善が完了した学校は全国でわずか41パーセントにとどまる。
賃金面でも、労組は基本給の引き上げ、夏休みなど長期休暇中の賃金保障、福利厚生や賞与格差の是正を求め続けてきた。しかし、教育当局の対応は、月7万2000ウォン(約7200円)程度のベースアップといった部分的な譲歩にとどまり、抜本的な待遇改善には踏み込んでいない。
今回は調理員1人あたりの担当生徒数を現行の100人から80人に削減することも求めているが、これを実現するには約300億ウォン(約30億円)の財源が必要とされ、学校側は即座の受け入れを困難としている。



