「全部やらない」ことが最大の戦略
もうひとつの例は、北海道の不動産会社エリアネットが運営する「本気不動産」だ。
名前の通り、不動産に関する情報を伝えるチャンネルだが、スタートしたのは2025年春。不動産は登録数が10万を超える「成功企業」がひしめく「レッドオーシャン」のひとつだ。だが、このチャンネルは開始から9カ月で登録数2万2000人超に成長している。登録数だけではなく、実際にYouTube経由で多くの問い合わせが舞い込んでいるという。
後発でもビジネスを成長させるチャンネルを生み出せた秘訣は何か。箱﨑副社長は「後発だからこそ『全部やらない』ことが最大の戦略になる」と語る。
不動産全般を広く扱えば、先行する競合チャンネルと正面衝突することになり、後発に勝ち目はない。そこで先行するチャンネルを徹底的に分析し、「勝ち筋のある領域」を見極めたという。
「分析の結果、不動産領域では『失敗を避けたい』という動画が、特に伸びやすいことが判明しました。住宅は人生で最も高額な買い物なので、視聴者は『失敗したくない』と強く思っています。そこで『ハズレマンション』『後悔する選び方』『避けるべき物件』など、視聴者の意思決定に直結するテーマにまずは絞り込みました」(STAGEON担当者)
「まずは」と言うのは、STAGEONの分析はそこで終わらないからだ。多くの登録者数を抱える先行チャンネルといかに違いを出して、支持されるようになるか。さらに、先行チャンネルの傾向を見極めたという。
「戸建て市場は回避し、マンション領域に特化することにしました。先行するチャンネルの多くが、ハウスメーカーや工務店などが運営しているので、正面衝突してしまうからです。加えて、注文住宅では自分の要望に沿って建てることができるので、『失敗を避けたい』という思いより『理想の実現』『ワクワク』といった方向に視聴者の関心が向きやすいからです」
そこで『本気不動産』はマンションに特化し、「チェックリスト」形式でコンテンツを設計することにした。
マンションは、立地、管理、築年数、階数、間取り・設備といったカテゴリごとに失敗パターンが構造化しやすいという。そこで「失敗の共通項」を整理し、1動画=1チェック項目として展開したのだ。視聴者は動画を見進めるほど「落とし穴をチェックリスト的に潰せる」状態になるので、毎回欠かさずに見るようになるのだ。
「競合と差別化しようとすると、どうしてもジャンルだけに注目しがちです。ですが価値の提供の仕方も十分に武器になります。単なる情報提供ではなく、判断基準(チェックリスト)を渡す設計に変えるだけで、同じテーマでも先行するチャンネルに勝つことができます」(STAGEON担当者)
こうして得たノウハウは、さらに他の動画、さらに他のチャンネルでも応用できるようになるのだという。
「たとえば『ハズレマンションの動画が伸びた』で分析を終わらせず、「失敗回避×チェックリスト形式が伸びた』と捉えなおすとします。そうすれば、老後など別のテーマに展開し、ヒットを狙うこともできます」(STAGEON担当者)
映像制作の経験者は採用しない
こうしたYouTubeに特化した制作ノウハウを支えているのが、独自の人材育成システムだ。STAGEONは映像制作の経験者をあえて採用しないという。
というのも、テレビや映画の「常識」に染まっていない人材だからこそ、YouTubeの「勝ちパターン」を素直に吸収できるというのだ。未経験者を採用し、入社後に研修などを通じて、YouTubeに最適化された独自のメソッドを理解してもらう。さらに研修終了後も具体的かつ詳細なマニュアルを共有している。
「私たちはヒットを連発する『スター制作者』に依存しないで済む仕組みをつくっています。どの制作者がどのチャンネルをプロデュースしても、成果を挙げられるようにしています。再生回数やバズに翻弄されるのではなく、クライアントが本当に届けたい相手に届くかどうか。それこそがYouTubeチャンネル運営の本質なのです」(軽米社長)


