全額現金で物件を取得し、売却せずに長期保有を貫く
鉄道職員の息子として生まれたオルテガは、14歳のときにシャツ店の雑用係として働き始めた。1960年代に入ると、当時の妻で仕立て職人だったロサリア・メラとともに、自宅のリビングルームでガウンやランジェリーを作り始めた。2人は1975年にザラを立ち上げ、10年後にインディテックスを設立した。2人は1986年に離婚したが、メラは2004年まで取締役として経営に関わり、2013年に死去するまで株主でもあり続けた。
オルテガが不動産投資に乗り出したのは、インディテックスを上場させた2001年だった。新規株式公開(IPO)に伴い、彼は同社株の13.5%を11億ドル(約1738億円)で売却し、その後まもなく持ち株会社のPontegadeaを設立した。彼はこの会社を通じて、故郷ガリシアにある娘のマルタが乗馬を学んだ場所でもある馬術施設「クラブ・イピコ・カサス・ノバス」を取得した。その後25年にわたり、オルテガは不動産資産を着実に積み増してきた。主な原資となったのは、インディテックスから毎年受け取る巨額の配当の一部で、その総額は2001年の上場以降、税引き後で約280億ドル(約4.4兆円)に達する。また、賃料収入を再投資して新たな物件取得に充てる戦略も継続した。
オルテガの会社と取引した経験がある匿名でフォーブスの取材に応じた2人のブローカーによると、オルテガは借り入れに頼らず、全額現金で一等地の目玉物件を買う傾向があり、売却に踏み切ることもほとんどないという。直近で入手可能な2024年のPontegadeaの年次報告書によれば、同社の負債総額は3億9000万ドル(約616億円)にとどまった。これは総資産の2%にすぎず、とりわけ商業用不動産の世界では、ほとんど例を見ないほど低いレバレッジ水準だ。
あるブローカーは、「彼は、資金が無尽蔵にあるように見える点で、大半の不動産投資家とは大きく異なる」と話す。そのブローカーは、「彼が好むのは、リスクの大きくない物件だ。安く買って価値を高めようとしているわけではない。彼が買っているのは、その市場で最高級とされる、一流のコレクション資産だ。どちらかといえば、最高峰の美術品を買い集めるアートコレクターに近い」と語った。
取得額のトップ5には、ロンドンとカナダの大型物件が並ぶ
そうした目玉物件には、2011年に5億4000万ドル(約853億円)で取得したマドリードの43階建て高層ビル「トーレ・ピカソ」や、2013年に6億7100万ドル(約1060億円)で取得したロンドンのグリーンパークを見下ろす歴史的建造物「デボンシャー・ハウス」、2019年に7億4000万ドル(約1169億円)で取得したシアトルでアマゾンが入居する延べ床面積80万平方フィートのオフィス複合施設「トロイ・ブロック」、そして2022年に9億1600万ドル(約1447億円)で取得したトロントの金色の外装で知られる「ロイヤル・バンク・プラザ」がある。
オルテガの大型不動産買収トップ5
1. ロイヤル・バンク・プラザ:9億1600万ドル(約1447億円)○カナダ・トロント○2022年取得
2. カナダ・ポスト:8億5500万ドル(約1350億円))○カナダ・バンクーバー○2025年取得
3. ザ・ポスト:7億8500万ドル(約1240億円)○英国・ロンドン○2019年取得
4. トロイ・ブロック:7億4000万ドル(約1169億円)○米国・シアトル○2019年取得
5. ジ・アデルフィ:7億1300万ドル(約1126億円)○英国・ロンドン○2018年取得
別のブローカーは、「彼らが買うのは守りに強い不動産だ。つまり、都市部のきわめて戦略的で、代替のきかない立地にある物件で、長期にわたって安定してテナントを確保できるものを指す」と話す。「入居しているのは上場企業で、時価総額は何十億ドル(数千億円)規模にのぼる。経営破綻を心配する必要がない」。
もう1つ際立っているのは、物件の保有期間の長さだ。不動産データベースのReal Capital Analyticsによれば、オルテガが売却した建物は10件しかない。ブローカーの1人は、「彼らはこれらの資産を半永久的に保有する前提で買っている。ほかの投資家は通常、5年から10年で売却するが、Pontegadeaはまったく違う。同社は、不動産を評価する際も、長期的に生み出されるキャッシュフローを重視している」と語る。
また、こうした姿勢は、Pontegadeaを不動産評価額の大きな変動や市場環境の変化から守る助けにもなっている。特に足元では、商業用不動産、とりわけオフィスビルが低迷に直面しているが、こうした局面でも、同社は市況悪化の影響を受けにくい。


