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2026.04.21 17:00

億万長者の行列ができるクレジットカードとは? 顧客を全員失ったフィンテックが「超富裕層専用」で復活

Atlas CEOのパトリック・ムロゾウスキー(Photo by Taylor Hill/Getty Images)

社名をAtlasに改め、年会費約16万円の招待制チャージカードとして本格再始動

2021年後半から2023年後半にかけて、ムロゾウスキーは事業再建とブランド刷新に踏み切った。従業員の3分の1超を削減し、社名もAtlasへ変更した。ジャッキー・リセスが率いるカンザスシティ拠点のLead Bankと提携し、自身もニューヨークへ移った。ムロゾウスキーは、アメリカン・エキスプレスのプラチナカードやブラックカード(Centurion)のコンシェルジュサービスについて、「実際には使いにくい」という不満の声があることを耳にしていた。そこで彼は、旅行手配やレストラン予約をテキストメッセージで依頼できる、新しいコンシェルジュ機能を立ち上げた。

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スチール製で重さ21グラムのカードを、「世界への鍵」として富裕層に打ち出す

2023年8月、ムロゾウスキーはAtlasを年会費999ドル(約15万7800円)の高級チャージカードとして本格的に再始動させた。チャージカードとは、クレジットカードと異なり分割払いやリボ払いを想定せず、毎月の利用額を翌月に一括して支払う後払い型のカードにあたる。米国では、例えばアメックスの「プラチナ」「Centurion」が代表格として知られている。Atlasの新たなカードはスチール製で、鏡面仕上げを施した洗練されたデザインを採用。重さは21グラムで、一般的なプラスチック製カードの約4倍にあたる。提供は招待制で、宣伝文句には「世界への鍵」という言葉が使われた。

元グーグルCEOのシュミットやルーシー・グオなどテック業界のビリオネアが続々と入会、急成長と大型資金調達を実現

現在、約2000人の顧客は、プライベートジェットの手配、タークス・カイコス諸島のホテル予約、ニューヨークの人気店「The Corner Store」や「Torrisi」での食事の予約まで、Atlasのコンシェルジュにテキストメッセージで依頼している。ビリオネアのテック起業家ルーシー・グオは、Atlasをどのクレジットカードよりも多く使っており、月に最大200万ドル(約3億2000万円)を決済していると話す。元グーグルCEOのエリック・シュミットもこのカードの会員で、Atlasの出資者でもある(シュミットの広報担当者はコメントを控えた)。

評価額約670億円でシリーズCを完了、年換算粗収益は約32億円超に

Atlasが参入したのは、アメリカン・エキスプレスやJPモルガン・チェースなどの巨大企業が長く支配してきた、競争の激しい市場だ。それでも、このスタートアップは急成長を続けている。現在の年換算ベースの総売上高(粗収益)は2000万ドル(約32億円)を超え、評価額4億2000万ドル(約670億円)で、4000万ドル(約64億円)のシリーズC調達を完了したばかりだ。今回のラウンドは、独立系ベンチャーキャピタリストのイーラッド・ギルとVerified Capitalが主導し、Marathonとディック・コストロの01 Advisorsも参加した。

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「ムロゾウスキーはPointで5年間、出口の見えない格闘を続けていた」と、Marathonのマイケル・ギルロイは振り返る。ギルロイは、2024年に投資の協議を始めた時点でも、ムロゾウスキーの意欲がまったく衰えていなかったことに驚いたという。ムロゾウスキー自身は今、「起業しても、会社が実際にうまく回り始めるまでにどれだけ時間がかかるかは、誰も教えてくれない。実際には、たいてい自分が思っているよりずっと長くかかる」と話している。

起業家としての原点は、19歳で立ち上げたビットコイン投資アプリ

ポーランドからの移民の家庭に生まれたパトリック・ムロゾウスキーは、双子の兄弟マーティンとともに、シリコンバレーの少し南に位置するサンタクルーズで育った。父親は、CD-ROMやDVDの映像作品制作を含む複数の小規模事業を手がけていた。ポーランド映画の配給権を取得し、それをネットフリックスに販売していたこともある。母親は看護師だった。パトリックによれば、現在は「Miso」というAI旅行スタートアップの立ち上げを進めている双子の兄マーティンは、昔から自分より背が高く、人気者だったという。「自分はずっと、脇役のような存在だと感じていた」と彼は振り返る。

パトリックは子どもの頃からテック起業家に憧れていた。カリフォルニア大学サンタクルーズ校にも合格したが、大学には進まず、19歳だった2016年にフィンテック企業「Crumbs」を立ち上げた。Crumbsは、買い物の釣り銭をビットコイン投資に回すアプリだった。ムロゾウスキーによると、この会社は2年後、300万ドル(約4億7000万円)未満でより規模の大きな暗号資産スタートアップのMetalに売却されたという。

2021年のフィンテックバブル期、評価額約435億円でPointを大型調達まで導く

その翌年、彼はソフトウエアエンジニアのケナン・プラク、デザイナーのシド・パリハーとともにPointを創業した。同社は、フィンテックバブルの絶頂期だった2021年9月に、評価額2億7500万ドル(約435億円)で4700万ドル(約74億円)を調達した。だが、その後の3年間、Pointは赤字が続いた一方で、売上高はほとんど伸びなかった。

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翻訳=上田裕資

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