食&酒

2026.04.14 14:15

ガチ中華も急増。在留外国人400万人時代となった日本の多文化社会の問題点とは?

2024年2月に東京・新宿にオープンした本格重慶火鍋店「天府火鍋巷子」には、都内に住む多くの中国の若者たちが来店している

ガチ中華オーナーたちの深い思い入れ

では、こうした不安を少しでも軽減させるためにはどうしたらいいのだろうか。筆者の考えでは、ひとまず今日の多文化社会の実態を「見える化」することである。何が起きているのかを、偏りのない視点から、できる限り詳らかにすることで、適切かつ合理的な対応につなげていくしかないのではないだろうか。

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たとえば、ガチ中華オーナーたちがこれほど多くの店を営んでいるのは、先に述べた商売上の目先の理由だけではないと考えられる。中国の人たちの食に対する深い思い入れやこだわりは疑いようがない。彼らは心底中国の料理がいちばん美味しいと信じてやまない人たちであり、食のためにはとことんこだわることは、普段の彼らの様子を眺めていてもわかるのである。

ガチ中華の調理人が鍋を振るう姿は、今日、世界中で見られる。19世紀と違うのは、彼らが中国南方出身者だけでなく、中国全土から来た人たちであることだ。 撮影=佐藤憲一
ガチ中華の調理人が鍋を振るう姿は、今日、世界中で見られる。19世紀と違うのは、彼らが中国南方出身者だけでなく、中国全土から来た人たちであることだ。 撮影=佐藤憲一

その強固な食に対するアイデンティティは、ひとたび海外に出国した先でより発揮されるものかもしれない。

長い歴史のなかで、彼らはたびたび海外へ出国する人生を選ばねばならない時代を迎えていた(海外に行かなくても満足な暮らしが地元で送れるのであれば、誰もわざわざそんな冒険はしないものだ)。

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異国の地で、とにかく食べはぐれないためには飲食業を始めればなんとかなるという伝統的な華僑の生存戦略というものがベースにあることも確かだろう。

先月末、上梓した筆者の新刊『ガチ中華移民 日本で増殖する「本場中華料理」の謎』(太田出版刊)では、こうしたガチ中華オーナーたちの胸の内や日々の姿を紹介するとともに、1990年代以降、急増していく新華僑の来日から今日に至る30数年間をたどりながら、日本にガチ中華が出現していくプロセスについて述べている。

また、ガチ中華の原点としての中国側の事情、すなわち1980年代の改革開放がもたらした個人経営の解禁とその後の市場経済への移行、さらに21世紀の飛躍的な経済成長にともないアップグレードされた本格的な料理、すなわちガチ中華となってわれわれの目の前に姿を現わすに至った時代的背景についても解説している。

さらには、こうしたガチ中華の出現は日本にのみ起きたのではなく、21世紀以降の経済力のある中国人の大量出国によって海外各地に届けられた、グローバルな共時的な現象であることも指摘している。

こうした一連の知見を筆者が得るに至ったのは、2021年夏に立ち上がったガチ中華を愛好するSNSコミュニティ「東京ディープチャイナ研究会(TDC)」の仲間たちのおかげと言っても過言ではない。

TDCが運営する公式サイトやSNSに投稿されるコンテンツは「みんなで気軽にガチ中華の情報をシェアし合いましょう」というシンプルな主旨に賛同する、さまざまなバックグランドを有する国籍もいろいろ、幅広い年代のメンバーたちによるものだ。

なかでもコアなメンバーは、知的なグルメ愛好家や中国通の人たちとともに、中国および海外の中国語圏と仕事や留学などの縁があり、現地の事情をよく知る人たちが多い。さらにはSNSを通じてわれわれの活動に共感した若い人たちもいた。

彼らとの日々の活動を通じて、筆者はガチ中華の世界に深く分け入ることになった。それは今日の日本の多文化社会に相互に向き合う人たちの姿を知ることでもあった。

4月17日(金)19時から東京・池袋の「ジュンク堂池袋店」で「ガチ中華とインネパカレーの過去・現在・未来」というトークイベントが開催される。ゲストとして、『カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」』(集英社新書)の著者であるライターの室橋裕和さんにも登壇いただくことになっている。

「インネパ」とはインドとネパールの略だが、いわば、全国に増殖したインネパレストランの謎を解いた室橋さんと、ガチ中華出現の背景を探ってきた筆者が、ガチグルメの今日の姿とその担い手である人たちをめぐってトークするという趣向である。ご興味のある方はぜひご参加いただきたい。

文・写真=中村正人

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