サイエンス

2026.04.17 17:00

人間にはなぜ「虫垂」があるのか? 科学者がついに役割を解明

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虫垂という器官は、医学史ではおおむね、進化の過程で残された遺物といった程度の扱いだった。最悪のタイミングで炎症を起こしがちな、指のように細長く小さな袋状の臓器にすぎない、と。

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かのチャールズ・ダーウィンですら、草食性の人類の祖先が大昔に使っていた臓器とみなし、より大きな消化器官の名残にすぎないと見ていたことは有名な話だ。

虫垂に関する説明は長いあいだ、それで十分だと考えられてきた。結局のところ、人間はたとえ虫垂がなくても、なんの問題もなく普通に生きていくことができる。外科医はごく当たり前のように虫垂を摘出するし、そのあとも目に見えて困ることは一切ない。しかし、進化というものがそんなに単純明快であるケースはほぼないと言っていいだろう。

進化生物学者は近年、この小さくて見落とされがちな臓器が本当はどのような役割を担っているのかを、改めて考察し始めている。そして、見つかったエビデンスから、虫垂は私たちが信じるに至ったような「無用の長物」ではないことがわかってきた。

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虫垂の役割に関する科学者の見解がなかなか一致しない理由

当然ながら、虫垂に役割があるのなら、その解明にこれほど時間がかかったのはなぜなのか、と首をひねる人が多いかもしれない。解剖学の学術誌『Anatomical Record』で2023年に発表された研究論文によれば、この疑問には二つの側面がある。一つは、虫垂に関するデータがあまりにも不足していること。もう一つは、虫垂そのものが複雑な臓器であることだ。こうした事情が相まって、研究の空白を埋めることが長いあいだ、困難だった。

虫垂が初めて発見されたのは16世紀のことだ。研究者はそれ以来、虫垂が存在する目的について、統一的で明確な見解を探し求めてきた。虫垂は食生活と関係しているのか。環境か。あるいは、特定の種に特有の生態学的な役割を持つのか。虫垂についての解明は何度も試みられたが、研究者の考えが一致することはなかった。

その主な理由は、哺乳類を全般的に見ても、虫垂が単純なパターンに従っていないという事実にある。たとえ近縁な種であっても、虫垂を持つ種と持たない種がどうやら存在しているようなのだ。それに、たとえ虫垂があったとしても、見た目は必ずしも同じではない。

こうしたことが示唆するように、また、先述の研究論文でも明らかにされたように、虫垂には、複数の「虫垂形態型」、つまりは種によって異なる形態構造があるようだ。そこで、「そうしたさまざまな形態を持つ虫垂はどれもみな、同じ役割を果たしているのか」という疑問が生じる。ただしこれについては、答えを導き出すのがやや難しいことがわかっている。

さまざまな形態が存在するため、虫垂の進化を促したただ一つの要因を特定することはほぼ不可能だった。虫垂が存在する意味を説明できる一貫した生態学的な要因や、食事的な要因は長いあいだ、見つかっていなかったのだ。手短かに言えば、虫垂はほかの臓器と異なり、唯一の明確な目的を持っていないように見える。おまけに、研究そのものに、人間の先入観も大きく関与していた。

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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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