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2026.04.14 13:30

日本の宇宙産業を九州から引っ張る QPS研究所のSAR衛星戦略

大西俊輔|QPS研究所

大西俊輔|QPS研究所

この数年、宇宙スタートアップの上場が相次ぐなかで異彩を放っているのがQPS研究所だ。地域発の技術シーズを、地場企業を巻き込んで昇華させ産業形成につなげた好事例だ。

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2025年夏、QPS研究所の管制室にどよめきが起こった。不具合を発生して運用を終了していた小型SAR(合成開口レーダー)衛星のQPS-SAR5号機「ツクヨミ-I」に復旧の兆しが見えたからだ。

5号機が通信できなくなったのは前年の9月だ。QPS研究所は、人工衛星を軌道に多数配置して一体的に運用するコンステレーションで、地球の観測データを取得している。同型機を同時に複数製造しているため、宇宙で不具合が起きても地上で原因を特定することができる。分析の結果、宇宙空間の放射線によってテレメトリ送信機内の回路に異常が生じた可能性が高いことが判明した。しかし、その回路を復旧することは困難。同社を率いる大西俊輔は断腸の思いで運用終了を決定し、25年5月期に16億3600万円の減損処理をした。

ただ、衛星は運用を終了しても軌道上を周回し続ける。エンジニアチームはほかの衛星の運用を行いつつ、5号機の復旧を模索し続けていたのだ。

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「このケースで復旧は通常難しい。現在は定常運用再開に向けて調整をしているところ。技術的に困難なことをやり切ったことは大きい。みんな、この先何が起きても立ち向かえる自信もついたと思います」

大西はマインド面の効果を語ったが、衛星が1基でも増えることの影響も見逃せない。QPS研究所が運用している小型SAR衛星は現在、世界で5社しかビジネス化できておらず、データ供給量が圧倒的に足りないからだ。

地球観測衛星は大きく2種類ある。カメラと同じく可視光で撮影する光学衛星と、電波を発射して地表から跳ね返ってきたものを受信し画像化するSAR衛星だ。光学衛星の強みは視覚的にわかりやすく撮れること。ただし撮影には光源が必要で、昼間しか撮れず、雲がかかればその下も観測できない。それに対してSAR衛星は観測に光を必要とせず、使用する電波は雲を透過するため天候も問わない強みがある。大西は、「将来は光学衛星とSAR衛星で分け合うくらいの市場になるのでは」と見ている。

ニーズは高いSAR衛星だが、社会実装にあたっては難点があった。衛星は太陽電池でしか発電できないため小型衛星では電力供給量が限られるが、SAR衛星は観測に大きな電力を必要とする。大西いわく、「光学衛星がスマホだとすると、SAR衛星は電子レンジのイメージ」。2000年代から小型衛星の開発ブームが起きたが、電力の問題はいかんともしがたく、小型SAR衛星を開発するスタートアップはほぼいなかった。

この難題に挑戦したのがQPS研究所だった。同社は「九州に宇宙産業を根付かせること」を目指して05年に九州大学名誉教授陣によって創業されたスタートアップで、当初は大学衛星プロジェクトのサポートや受託の開発案件が主だった。ただ、受託だけで産業を発展させることは難しい。13年に創業者の志を受け継ぐべく入社した九大卒の大西が目をつけたのが、小型のSAR衛星だった。自社プロジェクトで、誰もやっていないことに挑戦したい──。

「展開型の大きなアンテナを搭載できればSAR衛星の小型化が可能かも、という先行研究はありました。創業者の八坂哲雄先生は民間で大型のBS/CS衛星をつくっていた経験もある研究者。アンテナの知見は豊富で、相談したら『できるよ』。そこから展開型パラボラアンテナで省電力化に成功し、19年に1号機を打ち上げました」

当時、民間と宇宙機関を含めてもSAR衛星は世界でも数が限られていた。前後して海外や日本で小型SAR衛星スタートアップが誕生して基数は増えてきたが、先行する小型光学衛星とは現時点でもまだ差が大きい。安全保障領域をはじめ世界的に観測データの需要は高まっているため、1基でも多く運用することは重要であり、その意味でも5号機の復旧は朗報だったのだ。

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文=村上敬 写真=吉澤健太一

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