2017年、Y Combinator(ワイ・コンビネータ)の支援を受けたスタートアップ、Lyrebirdは、わずか数秒の音声から人の声を複製できる技術を開発した。製品は実際に機能していた。チームも優秀だった。だが2年後、Descriptが同社を買収し、その技術をポッドキャスト編集機能に組み込んだ。Lyrebirdは、おおむねそこで終わった。
2022年、ElevenLabsは、ほぼ同じ売り文句で立ち上がった。ディープラーニングを使った、リアルな音声合成である。2025年末までに、ElevenLabsのARR(年間経常収益)は3億3000万ドル(約527億5000万円)に達した。2026年2月には、評価額110億ドル(約1兆7587億)で5億ドル(約799億2000万円)を調達した。アイデアは同じだった。違ったのは5年という時間差だけだ。AIモデルの性能がようやく十分に上がり、コストも十分に下がって、市場がその構想に追いついたのだ。
オスカー・ホンはこの1年、こうした事例を記録し続けてきた。ホンはPlaidのグロースチームで3年半を過ごし、1000社を超える初期段階のフィンテック企業を評価した。現在はStartups.RIPを運営している。これは、失敗した、買収された、あるいは人材獲得目的で買収されたY Combinator出身企業について、AIを使って詳細な事後分析を作成するデータベースだ。これまでに1700社超を記録している。
彼が繰り返し見いだしているパターンは一貫している。
「早すぎて失敗することは、間違っていたことと同じです」と、彼は私に語った。「2021年にはコーディングエージェントに取り組んでいた人たちがいましたし、2017年、2018年には音声クローンに取り組んでいた人たちもいました。しかも彼らはみな非常に優秀でした」。
Y Combinator自身のディレクトリには、過去20年にわたって資金提供を受けた500社超のスタートアップ企業が載っている。フィンテックは、2022年冬のYCバッチの24%を占め、ブームの頂点に達した。2021年冬の1期だけで56社のフィンテックのスタートアップが採択されたが、これはYCが最初の10年間で支援したフィンテック企業の総数を上回っていた。TechCrunchによれば、2024年後半にはフィンテックの比率はバッチ全体のおよそ8%にまで低下した。このブーム崩壊のあとには、アイデア自体は妥当でも、タイミングが合わなかった企業が何百社も残された。
アイルランド拠点の予測市場、Intradeは、最盛期には月間5000万ページビュー超を集め、2億ドル(約319億7000万円)超の賭けを処理していた。だが2012年、米商品先物取引委員会(CFTC)から違法な商品オプションを提供していたとして提訴された。プラットフォームは2013年3月に閉鎖された。
その5年後、タレク・マンスールとルアナ・ロペス・ララは、同じ発想でKalshiを創業した。現実世界の出来事の結果を取引できるようにする、という発想である。ただし彼らは規制の枠外で運営するのではなく、3年をかけて取引所の基盤を整え、CFTCから指定契約市場(Designated Contract Market)としての承認を取得した。2024年10月、連邦裁判所がKalshiによる選挙関連契約の提供を認める判断を下すと、同社は転機を迎えた。2025年10月までに、Kalshiの年間取引高は500億ドル(約7兆9930億円)に達した。12月には、評価額110億ドル(約1兆7585億円)で10億ドル(約1598億6000万円)を調達した。
Kalshiの創業者たちは、予測市場を発明したわけではない。規制環境を乗り切れる状態になるまで、生き残ったのである。



