ユリヤ・バラバシュ、SBSB Fintech Lawyers創業者兼マネージングパートナー
私が見てきたなかで、創業者が最も過小評価しがちな意思決定の1つは、事業を「安く」立ち上げようとすることだ。スタートアップの世界ではいま、「速く、安く立ち上げろ」という考え方が広く流布している。だが、今日の現実において、安く事業を始めることはどれほど利益につながるのだろうか。
この発想には、シリコンバレー発の成功物語にふさわしい装いがすべて揃っている。正しいように感じられ、賢明に聞こえる。そして成功した創業者の誰もが、それを支持しているようにも見える。だが、金融およびテクノロジー分野で数百人の創業者に助言してきた経験から言えば、たいていは後々、想定外の複雑さを招く。
私のビデオ通話に集まってくる若いCEOたちは聡明で野心的であり、スピードこそ唯一の味方だと固く信じている。市場でのポジション争いが短距離走であり、ためらいが失敗の匂いを放つことも理解している。しかし速さを求めるあまり、あまりに多くの人が、いずれ自分自身、さらには投資家にまで、まだ想像もできない形で跳ね返ってくる意思決定をしてしまっている。
制約とリスクを見極める
私は15年以上にわたり、フィンテック、投資、暗号資産、ゲーム業界にまたがってスタートアップの立ち上げや中堅企業への助言を行ってきた。そのため、考え得るほぼあらゆる立ち上げのシナリオを見てきた。現実には、多くのスタートアップが最も速く最も安い選択肢から始め、そしてその戦略がうまくいくこともある。
しかし創業者は、スピードと低コストには通常、事前に評価すべき制約とリスクが伴うことを理解しなければならない。
たとえば、低コストのゲームライセンスの中には、法定通貨の決済処理へのアクセスを制限し、従来型の銀行で口座を開設しにくくするものがある。その結果、一部の国際的なパートナーが協業を拒むこともあり得る。
同様に暗号資産分野でも、一部の法域で取得できる安価な認可は迅速な開始を可能にする一方、より確立された金融ハブと同等の信頼性、パスポーティング権、市場アクセスを提供しない場合がある。
これは、身軽な立ち上げが誤りだという意味ではない。完全に合理的な第一歩となり得る。
法的な枠組みを慎重に検討することがなぜ重要なのか
私は、次のまったく同じシナリオが何度繰り返されたか数え切れない。スピードと節約を追い求めるあまり、企業が自社の法的な枠組みをカスタマイズせず、どこで、なぜ法人化すべきかという厳しい問いを立てない。経営陣は最も安い提供者からテンプレートを手に入れるだけで、法域の選択を些細なものとして扱い、自社の事業が成長するか、枯れてしまうかを左右する「土壌」であることに気づかない。
しかも、これを修正するのは住所変更のように簡単ではない。会社全体を別の国へ移す必要が生じ、その手続きに何カ月もかかることもある。あるいは銀行口座を閉じて新たに開設し直さなければならず、これは常に厄介だ。さらに、ライセンスの再申請が必要になる場合もある。もっと厄介なのは、誰がどの株式を保有するのかという点まで再編しなければならない可能性すらあることだ。
私が懸念するのは、この罠がいまなお強い誘惑として残っていることだ。その衝動は理解できる。若い創業者は通常、資金に限りがある。給与、家賃、ソフトウェアのサブスクリプションを支払う一方で、ランウェイの時計は刻々と進んでいく。
実際に何が含まれているのか
私のメッセージは、創業者に対し、見積額の表面だけで判断せず、実際に何が含まれているのかを問い、リスクを評価し、意識的に選ぶよう促すことだ。速く安い立ち上げを選ぶ創業者は、法人設立費用だけでなく、年単位での総コストを提示するよう求めるべきである。この分析を省く人は、安い立ち上げではグローバルにスケールできないことを、手遅れになってから知ることが多い。
事業立ち上げにおいて、「安い」はめったに「低コスト」を意味しない。単に、最終請求書をまだ見ていないというだけだ。
合理的な立ち上げとは、安くすることでも、過度に高額にすることでもない。その時点で、自社にとって何が最も機能するかを戦略の観点から選ぶことだ。初期段階では、低コストでありながら法的に堅牢な枠組みが最適であることが多い。これにより、企業はプロダクトを検証し、市場を確かめ、資源を時期尚早に投じることを避けられる。
モデルの検証に成功した後は、より強固な法域とインフラへ移行し、国際市場、銀行、投資家に門戸を開くのが賢明かもしれない。確信をもって行う「正しい」立ち上げは、節約のための節約ではない。成長戦略なのである。
ここで提供する情報は法的助言ではなく、特定の案件における弁護士の助言に代わるものではない。法的助言が必要な場合は、自身の具体的状況について弁護士に相談されたい。



