冬がまだ居座っている時期。凍えるほど寒い森林や湿地の縁で真っ先に花を咲かせる植物は、奇妙さにかけても並外れている。ザゼンソウ(北米ではアメリカザゼンソウ 学名:Symplocarpus foetidus、東アジアではザゼンソウ 学名:Symplocarpus renifolius)と呼ばれるその植物は、鼻をつく悪臭と、斑のある紫色の苞(ほう:花の基部にある特殊化した葉)で有名だ。だが、生物学者のあいだで最もよく知られているのは、他のほとんどの植物にはできないことをする能力だ。
その能力とは、花の熱産生だ。一部の植物は、自らの内部で熱を生み出し、温度を調節できる。この現象は数世紀前から記録されているが、その裏にあるメカニズムと、この能力が進化した理由に科学界の注目が集まったのは最近になってからのことだ。この記事では、生物学研究をもとに、この能力についてわかっていることを説明しよう。
「雪を溶かすほどの熱」をどうやって生んでいるのか
ザゼンソウの熱産生能力の仕組みと、なぜそれが稀有なのかを理解するためには、植物のミトコンドリアの内部に潜む特色を理解する必要がある。
通常の植物における細胞の呼吸プロセスでは、ひとつながりのタンパク質複合体を電子が移動する。その際に、陽子が膜を越えて押し出され、アデノシン三リン酸(ATP)がつくられる。ATPは細胞の主要なエネルギー通貨であり、細胞の成長や化学合成といったプロセスを可能にしている。
ほとんどの植物の場合、ATP産生プロセスは高効率で密に連結されており、そこから生じる廃熱は比較的少ない。それに対してザゼンソウは、逃がし弁(圧力が高まったときに自動的に排出して圧力を下げる安全弁)と見なしてもよさそうな仕組みを使っている。
もっと具体的に言えば、ザゼンソウが依存しているのは、代替酸化酵素(AOX)と呼ばれるタンパク質だ。このタンパク質は、電子伝達系をいわばショートさせる役割を果たす。通常のATP産生機構から電子をそらし、そのエネルギーを直接、熱として放出するのだ。
AOXは陽子ポンプを完全に迂回するため、ブドウ糖酸化から生じる自由エネルギーのおよそ6%が、ATP結合に捕らわれるかわりに廃熱として放出される。
どんな代謝基準に照らしても、このシステムはおそろしく無駄の多いものと見なされるだろう――だがザゼンソウにとっては、まさにそれが肝心な点なのだ。
『Plant Physiology』で発表された2024年の研究によれば、ザゼンソウでは、小花での熱発生の前段階から、熱発生段階を通じて、AOXの発現が一貫して高い状態で維持されているという。さらに、ザゼンソウの通常のシトクロム経路(ATPを生み出す経路)が、低温時には硫化水素によって抑制されることもわかった。
もっと簡単に言えば、これはつまり、ザゼンソウには寒い時期に代謝のルートを変えるシステムが組み込まれているということだ。この効果的なシステムにより、細胞の代謝ルートを強制的に変え、AOXを介するルートにする。そのおかげで、雪を溶かして花粉媒介者を招き寄せる必要がある時期にぴったり合わせて、熱産生を最大化できるのだ。
熱産生器官そのものは肉穂花序(多肉な花軸の周囲に柄のない花が多数密生したもの)で、これは仏炎苞(肉穂花序を包む大きな葉のようなもの)のなかにある中央の大釘のような構造だ。とりわけすごいのは、周囲の気温が摂氏マイナス10度という低さのときでさえ、ザゼンソウは肉穂花序の温度を1週間近くにわたって22~26度に保てることだ。
これは、生物による温度調節の偉業であり、これほど正確かつ持続的な温度調節は、現在までに研究されたほかのどんな植物でも記録されていない。



