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2026.04.04 14:15

医師がつくった「味覚拡張デバイス」で変わる減塩の味

「日本高血圧学会」の推計(2019年時点)によると、高血圧の日本人は約4300万人。国民の3人に1人にのぼる。高血圧症は脳梗塞や脳出血の最大のリスク因子であり、心疾患とも深く関係している。最良の対策は減塩だ。しかし「味が薄くて美味しくないから続かない」という声が多いのが現実だ。この課題をテクノロジーで解決した、電気味覚デバイス「umaiNa(ウマイナ)」が、2026年に名古屋大学発ベンチャーのUBingからリリースされる。

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このプロダクトは、大分県主催ビジネスチャレンジコンテスト「OITAゼロイチ」にて最高賞の大分県知事賞とForbesJAPAN編集長賞をダブル受賞した。UBingの代表であり、脳神経内科医でもある福島大喜に話を聞いた。

減塩はなぜ続かないのか

日本人は塩分の摂取量が多いことが知られている。世界保健機関が定める1日の塩分摂取目標は5gだが、日本人の平均は約10gと約2倍だ。1970年代の約14gからは改善されたものの、近年は下げ止まりが続いている。その大きな理由の一つは、減塩食はおいしくないため、続けることが難しいことだ。

「減塩は、達成できた場合、社会的インパクトが大きい生活習慣です。塩分の摂りすぎが原因の一つで発症する高血圧症は、脳梗塞や脳出血の最大のリスク因子であり(日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2019』)、心筋梗塞や心不全とも深く関わっています。

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また慢性腎臓病の要因にもなり、進行すれば人工透析が必要となることで、QOL低下と医療費増大の両面で、患者さんにも社会にも重い負担となります。減塩は、特定の疾患だけの問題ではなく、高血圧を介した循環器疾患・腎臓病をはじめとする多くの慢性疾患に共通する根本課題と言えます」(福島)

近年の健康志向の高まりから注目されている代替肉などの加工植物性食品にも、風味や食感の再現のために、塩分が相当量含まれているケースがある。「おいしさ」と「健康」を両立させることは、食品業界全体にとっても長年の課題だ。こうした諸課題を同時に解決しうるのが、福島らが開発した電気味覚デバイス「umaiNa」だ。

電気で塩味を増強するーウェアラブルデバイス「umaiNa」の仕組み

「umaiNa」は、顎に装着するマスク型の小型なウェアラブルデバイスだ。マスクは肌触りが良い柔らかい生地で、洗濯も可能。装着すると顎周囲に微弱な電流が流れ、その電気刺激によって、口内のナトリウムイオンが舌に集中し、塩味をより強く感じられる仕組みだ。

「食塩をはじめとする電解質が水に溶けてイオン化する性質を利用した、シンプルな仕組みです。使い方も簡単で、装着してスイッチを入れるだけで使えます。ただ、同じ食事でも感じ方には個人差が大きく、どの強度の刺激が最適か、個人ごとに最適化することが開発上の難所でした。最終的には刺激の強度を個人で自由に調節できるようにして対応しました」。

電気味覚デバイスは、2020年にアメリカで、2024年には日本で、それぞれ食器型(スプーン)が発売されている。実際に福島らもこれらの製品を試した。「食器型のアプローチは、電気で味覚を拡張するという発想を初めて社会に実装した点で、非常にイノベーティブな取り組みだと思います。一方で、スプーンや箸などの食器は、食べる瞬間は口の中にありますが、噛んで飲み込む時には口から外に出されます。つまり刺激が断続的にしか与えられないので、効果が感じにくいことが課題と考えました。さらに、日本人の食文化において、箸を使ったり、手で掴んで食べたりする料理が多く、食器はすべての食事をカバーしきれません。こうした日本の食卓に馴染む形でなければ実際に使い続けてもらうことは難しいと思ったのです」。マスク型の選択には、こうした実用性の発想が背景にあった。

次ページ > 開発の原点は減塩を諦めた患者との別れ

文=真下智子

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