医療用から宇宙へ。「umaiNa」が拓く無限の可能性

2026年に医療機関や介護施設への直接販売からスタートし、ゆくゆくはECサイトでの一般販売へと段階的に広げていく予定だ。
また、現在は並行して医療機器版の開発も始めているという。一般向けデバイスでは薬機法の規制から、疾患名を前面に出せないが、医療機器として薬機法上の承認を取得し、保険収載が得られれば、減塩が必要な疾患名に対して、医師が使用を指示できる道が開ける。脳卒中患者を対象にした塩味増強効果を検証した論文はすでに発表されており、健常者のみを対象とした従来の研究とは一線を画す成果として注目されている。
また電気味覚技術は、減塩以外の場面にも応用されている。介護施設での試用中、普段ほとんど食事を口にしない方が、デバイス装着時に食べ始めるケースが報告されているという。また、食事量や食への意欲が改善したケースも見られている。さらには抗がん剤の副作用として生じる味覚の異変についても、医療機関と検証を行う準備中である。「がんには効果がある薬でも、副作用で味が全くわからなくなってしまう患者さんがいます。食事をとれることは、栄養状態の維持だけでなく、生きる喜びにもつながります」と福島。
応用の可能性はさらに広がる。
「我々のデバイスは、塩味だけでなく、甘味の増強の可能性があることも見えてきました。砂糖を減らしても甘く感じることが可能になれば、糖尿病や肥満の対策にも貢献できる可能性があります。さらに、宇宙での活用も視野に入れています。宇宙空間では様々な要因で、地上と同じ食事でも塩味や甘みを感じにくくなることがわかっています。複数の宇宙飛行士の方へのヒアリングを行ったところ、“宇宙では減塩食を食べているようだった”という声を得ました。この技術を応用し、宇宙での快適な食体験も実現したいと考えています。また誰もが宇宙に行ける時代も、そう遠い未来ではないはずです。その時に、宇宙でおいしく食事ができるよう、このデバイスが活躍できればと思っています」。
大分県知事賞の受賞には、二つの背景があると考えられた。一つは、大分県が抱える健康課題と、本デバイスのコンセプトとの合致だ。大分県の地元グルメであるとり天や団子汁などは味が濃く、地元の減塩ニーズとも合致する。もう一つは、大分空港を宇宙旅行の離発着拠点とする『宇宙港』構想との共鳴だ。減塩という地上の医療課題から生まれたデバイスが、宇宙での応用というコンセプトをも持ち合わせていたことが、審査員の目に留まったと思われる。
受賞を機に、大分県の先端技術挑戦・宇宙開発振興班との対話が始まった。宇宙旅行時代における食の質を、テクノロジーで底上げするという構想は、地方創生と宇宙産業の交差点に新たな可能性を開きつつある。減塩という医療課題の解決策が、宇宙という新たな世界へと繋がっていく。
2025年11〜12月には韓国、台湾、ベトナムのメディアが名古屋を訪れ、取材を行った。東アジアはいずれも塩分摂取量の多い地域ゆえ、このデバイスへの注目度の高さがうかがえた。また福島らは、2025年大阪万博のヘルスケアパビリオンにも出展した。1日約400人が来場。こうした流れから、将来的に本格的なグローバル展開も考えているという。
2026年4月の販売開始に向け、医療機関や介護施設と並行して食品企業や食品卸との連携も強化し、減塩食品との組み合わせによる新たな食体験の提案も視野に入れる。
「多くの失敗や挫折も経験しました。しかし事業を諦めずに継続していると、助けてくれる人が現れました。大切なことはまず挑戦し、それを継続することだと日々学んでいます。『おいしい食事と健康を両立し、自分らしく生きることを支える』。このビジョンを実現するために、医療機関、介護施設、食品関連企業の方との協業が、この挑戦をさらに加速させると信じています」と福島。減塩という重要な課題に、テクノロジーで正面から向き合う。その挑戦は、日常生活や医療の現場から宇宙まで、想像以上の広がりを見せ始めている。


