三葉虫は、その眼で何を見ていたのか
三葉虫の眼は、私たちの眼とは見た目も機能も異なるため、こんな疑問を抱く人は多い――この眼で実際に何が見えていたのだろうか?
一つ言っておくと、三葉虫には、私たちが見ているような高解像度の像は見えていなかった。ヒトの眼は、一つだけのレンズ(水晶体)と、焦点を結ぶ網膜に頼っている。三葉虫の複眼はそれとは異なり、多くの個眼面から少しずつ視覚情報を集めていた可能性が高い。多くのピクセルが一つの画像を作り上げるように、一つ一つの個眼が、少しずつ異なる方向から来る光をとらえていたのだろう。
保存状態のよい4億2900万年前の三葉虫(Aulacopleura koninckii)を調べた『Scientific Reports』掲載の2020年の研究では、こうした三葉虫の眼を構成する個眼が、光検出細胞を備え、色素細胞の輪に囲まれていたことを明らかにした。この色素細胞は、各個眼面に入ってくる光を区切るのに役立っていたのだろう。そのおかげで、干渉が軽減されると同時に、全体的な像が鮮明になっていたと見られる。
興味深いことに、同研究の所見によれば、こうした三葉虫の眼は、現生のハチや甲殻類の眼とほぼ同じだという。これはつまり初期の複眼が、だいたいにおいて、すでに高度な機能を備えていたことを示している。こうした眼が生み出すモザイク像は、明るい浅瀬で動きや形状を感知するには理想的だっただろう。そうした能力は、捕食者を避け、餌を見つける上で決定的に重要だったはずだ。
もっと最近の研究では、一部の三葉虫で、さらに奇妙な眼の設計が発見された。『Scientific Reports』に掲載された2021年の研究では、ファコプス亜目の三葉虫が、「ハイパー複眼」とでも言うべき眼を備えていたことがわかった。簡単に説明すれば、この複雑な視覚系では、大きな外側のレンズの一つ一つが、それよりも小さな多数の個眼面を覆うように広がっており、それぞれが独自の小さな複眼のように機能するということだ。
したがって、数百の個別の視覚単位で見るかわりに、一つの眼で、入れ子状の視覚系を統合していたのかもしれない。その視覚系は、それぞれがミニチュアの光受容ネットワークと、脳との視覚接続を備えている。そうした下位レベルの個眼面の一つ一つが、現生動物の複眼のように機能し、利用できる視覚データを増幅していたのだろう。
このレベルの複雑さは、現在まで生き延びているほとんどの節足動物が持つ眼を凌駕している。つまり、太古の三葉虫のなかには、強力な視覚を備えたものもいたということだ。ひょっとしたら、海の生息環境のなかで、微細な動きや複雑な視覚パターンを感知する能力まであったかもしれない。


