色覚と両眼視が現れるよりもはるか昔、動物界屈指の大きな変革をもたらす発明が登場した――それが眼だ。現在では、ごくありふれたものに思える視力だが、視覚が昔から生物の「道具箱」に入っていたわけではない、という事実はあまり知られていない。
正真正銘の動物の眼を示す証拠となる最古の化石は、三葉虫と呼ばれる太古の海生節足動物のグループのものだ(三葉虫が最初に現れたのは、5億2000万年前ごろのカンブリア紀のことだ)。化石記録として知られる最古の正真正銘の眼だけでなく、これまでに見つかっているなかでも特に保存状態のよい眼のいくつかも、三葉虫のものだ。
そうした初期の眼は、いったい何を見ていたのだろうか。現代の科学により、それが明らかになりつつある。
三葉虫の眼はどんな設計だった?
三葉虫は、現生の昆虫や甲殻類の近縁にあたる、絶滅したグループだ。やわらかい体を持つ大部分の初期の動物とは異なり、三葉虫は、完璧に化石化した殻(外骨格)を残すことでよく知られている。
注目すべきは、石灰質の眼が残されていることだ。三葉虫の眼のレンズは、水晶のような方解石でできていたと考えられており、初期の感覚器官の他の部分が腐敗して消えたあとも、眼は形を留めることができた。
この複眼は、基本設計という点では、現生の昆虫や甲殻類のものとよく似ていた。『Arthropod Structure & Development』で2021年に掲載された研究論文で説明されているように、三葉虫の複眼は、個眼と呼ばれる多くの視覚単位で構成されている。
一つ一つの個眼は、小さなピクセルに似ている。光を感知し、その信号を三葉虫の神経系へと伝える。興味深い点は、三葉虫の眼には、この個眼が何百個もつめこまれていたことだ。そうした眼で見たものはモザイク像になる――低解像度のデジタル画面のようなものだ。
個眼が保存されている最古の化石例は、カンブリア紀に生きていた最初期の三葉虫「Schmidtiellus reetae」のものだ。5億2000万年前頃のこの化石では、眼の内部構造もいくつか特定できた。これには、感桿(かんかん:昆虫や甲殻類などの個眼の中心部にある、光を感知する感覚細胞のまとまり)や、その下の円錐晶体の要素とおぼしきものも含まれる。
そうした構造を考え合わせると、連立像型の複眼設計(現生の多くの節足動物で見られる基本形)は、動物の歴史のごく早い段階ですでに確立されていたと見られる。



