1973年の禁輸は原油を4倍に押し上げ──ホルムズ封鎖はその規模と期間の両面で上回る
24日時点で米原油指標WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は1バレル87ドル(約1万3900円)で、まだ事態の深刻さを織り込んでいない。市場では、世界経済が崩壊する前にトランプが合意をまとめると見ているからだ。だが、たとえ平和が実現しても、「紛争前の状態に戻ることはない」とバーンスタイン・リサーチ(Bernstein Research)のニール・ベヴァリッジは書いている。海峡の封鎖は、「石油業界最大のタブーを打ち砕いた。エネルギー市場では起こるはずがないとされてきたことが、実際に起きたのだ」という。ベヴァリッジは、この混乱は過去の湾岸戦争やロシアのウクライナ侵攻よりも大きいとみる。「これに近い例は、1970年代のOPEC禁輸しかない」と述べている。
本当にそうなのか。1973年のアラブ石油禁輸では、OPECが5カ月にわたり最大で日量500万バレルを市場から引き揚げた。当時、米国は日量600万バレルを輸入していた。原油価格は4倍に跳ね上がり、1バレル12ドル(約1915円)近くに達した。ガソリンスタンドには長い長い列ができた。インフレ率は12%を超え、GDPは2%縮小した。
ホルムズ海峡の封鎖が続けば、そうした不足や行列が再び現実になる可能性がある。カーライルのカリーとガットマン(いずれも元ゴールドマン・サックス)が公表した報告書は、「世界は1973年当時よりも、現在の方が石油ショックに対して脆弱だ。強くなったのではない」と指摘する。
なぜそう言えるのか。GDP当たりで見れば石油は半世紀前より安いかもしれないが、役割の面では、現在の方が代えがききにくいと2人は言う。世界は1973年の石油禁輸以降、エネルギー転換を進めてきた。その間に、取り組みやすい対策はすでに打ち尽くしてきた。車の小型化、暖房の設定温度の引き下げ、鉄道利用、あらゆる分野のグリーン化である。2人は報告書で、社会は石油依存を減らすうえで「簡単に削れる部分は、もう削り切った」可能性があると主張する。その一方で、「残っているバレルは、代替手段が存在しない用途向けだ」とも述べる。だからこそ、そこには高い上乗せ価格が付く。「エネルギー需要の優先順位は、安全保障、手ごろさ、持続可能性の順だ」としている。
米国の戦略石油備蓄の放出は不足分の約2割、1982年以来の最低水準まで底をつく見通し
米国の戦略石油備蓄(SPR)の放出にも過大な期待はできない。トランプ政権は4カ月でSPRから1億7200万バレルを放出する計画で、日量では約140万バレルに当たる。これは、ホルムズ海峡を通れなくなっている石油のわずか2割ほどにすぎない。しかもSPRの放出は短期措置だ。売却ではなく交換方式で進めるためである。このため、引き取り側は今年後半からSPRの貯蔵施設に原油を返し始めなければならない。ヒューストンのコンサルティング会社RBNエナジー(RBN Energy)によると、交換がすべて実施されれば、SPRの地下貯蔵施設の備蓄量は1982年以来の低水準となる2億4000万バレルまで減る。そしてその後はどうなるのか。世界は石油不足に陥る。


