モビリティ

2026.03.26 10:30

AFEELA開発・発売中止、ソニー・ホンダの「真っ白なキャンバス」はなぜ破り捨てられたのか

ソニー・ホンダモビリティの第1弾モデル「AFEELA 1」(Tomohiro Ohsumi/Getty Images)

ところが、2025年8月、カリフォルニア州新車ディーラー協会(CNCDA)がSHMとアメリカン・ホンダを提訴した。

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ホンダの関連企業が既存ディーラー網を迂回して直販するのは州法違反だという主張だ。2026年3月、裁判所はSHMの訴え棄却申立てを退けている。最大のターゲット市場で直販が法的に封じられたら、SDVに立脚した事業設計は根底から揺らぐ。テスラが独力で切り開いた道を、ホンダの看板を背負う企業がそのまま歩くことはできなかった。

AFEELAは「10万ドルの器」になれたのか

外部環境の悪化が主因であることは間違いない。だが、率直に問うべきもうひとつの問いがある。仮にすべてが計画通りに進んでいたとして──AFEELAは「売れる車」になっていただろうか。

8万9900ドルのOrigin、10万2900ドルのSignature。この価格帯はテスラ Model S、メルセデスEQS、ルーシッド Airと正面から競合する。

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AFEELAが掲げた「ソニー的エンタテインメント体験」には確かに独自性があった。だが正直なところ、それは「欲しい体験」としてはおもしろくても「10万ドルを払う理由」としてはまだ弱かったのではないか。

車を買うという行為において、インフォテインメントやAIエージェントは「あればうれしい付加価値」であって、乗り心地や走行性能、ブランドへの信頼と並ぶ決定打にはなりにくい。PlayStation Remote Playが車内で遊べることと、メルセデスの100年にわたるクルマ作りの蓄積。10万ドルを出す買い手の多くが、どちらに重みを感じるかは明らかだろう。

もちろん、技術そのもののポテンシャルは否定しない。40個のセンサー群、VLM統合のADAS、800TOPSのSnapdragon Digital Chassis。スペックだけ見れば、このセグメントで十分に戦える中身だった。ホンダ・レーシングとのコラボでF1初優勝マシン「RA272」のV12エンジン音をEVの車内に再現する機能は、「EVは退屈で静かな乗り物」という先入観を鮮やかに覆すデモンストレーションだった。

問題は、そうした技術の真価を市場で証明するには時間が必要なことだ。新しい体験型のプロダクトは、乗ってみなければ伝わらない。だが「乗ってもらうまでの時間」を稼ぐ事業体力が、合弁という構造のSHMには決定的に不足していた。親会社の戦略転換ひとつですべてが消えるリスクを、SHMは設立の瞬間から抱え込んでいたのだ。

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編集=安井克至

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