AFEELA 1はこのE&Eアーキテクチャの上に載っていた。オハイオ州の工場で0シリーズと製造ラインを共有し、プラットフォームもコアコンポーネントも共同調達する設計だ。ホンダが量産をやめた以上、年間数万台のニッチな高級車のためだけに独立したサプライチェーンを維持する道はない。
資本金100億円の折半出資で始まった合弁は、親会社の戦略転換というたったひとつの変数で事業ごと消える構造を、最初から内包していた。その脆さが、最悪の形で表に出たのだ。
ホンダが飲み込んだ2.5兆円
ホンダがこれほどの犠牲を払ってまで撤退を選んだ背景には、ほぼ同時期に襲いかかった三つの圧力がある。
ひとつめは、米国EV政策の崩壊。
トランプ政権は就任初日からバイデン政権のEV施策を体系的に解体し始めた。EV購入者向けの連邦税額控除を打ち切り、カリフォルニア州発のEV義務化の流れを押し戻し、排出規制そのものにも手をつけた。補助金の「アメ」と規制の「ムチ」が同時に消えた。結果、税額控除が切れた2025年10月を境に米国のEV販売は崖から転落し、2026年1月には市場シェアが約6%にまで沈んでいる。
ふたつめは、既存事業の収益悪化だ。
EVの先行投資を支えてきたのは、ガソリン車・ハイブリッド車の販売利益という「キャッシュカウ」である。だが自動車輸入関税がこの収益基盤を直撃した。EVに賭けるための原資が、関税によって削られた。本業が細れば、不確実なEVへの投資は続けられない。
三つめは、中国勢との埋めがたいコスト格差だ。
BYDは部品の75%を内製する垂直統合で、テスラの上海工場比でも約15%のコスト優位を持つ。2025年にはBEVだけで約226万台を売り、テスラを抜いた。
自前の運搬船を運航し、ハンガリーやブラジルで現地工場を建てるこの企業を、もはや「新興メーカー」とは呼べない。ホンダの中国でのEV販売がわずか1万7000台だったことを思えば、この差は開発手法の改善でどうにかなるレベルではない。
三つの圧力が束になって押し寄せた結果、三部社長は就任時に掲げた「2040年にEV・FCV比率100%」を事実上撤回し、ハイブリッド車強化へと回帰した。トヨタが批判を浴びながら貫いてきた「マルチパスウェイ戦略」を、結果的に追認する形になった。
EVの直販モデルが崩壊
AFEELAにはもうひとつ、致命的な障壁があった。販売チャネルの問題だ。
SHMはテスラと同様のオンライン直販を採用していた。直販が重要なのは、中間マージンの話だけではない。車両販売後のソフトウェア・アップデートやサブスクリプションで長期収益を積み上げるには、顧客との直接的な接点が要る。ディーラーを挟めば、顧客接点もデータもリカーリング・レベニューの主導権も手放すことになる。つまり、直販が詰まるとは車の売り方が変わるだけでなく、SHMの収益モデルそのものが崩れることを意味していた。


